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私立さくら学院小中学校 保健室

「私立さくら学院小中学校 保健室」序章

2016年9月21日、東京・水道橋。

台風の中家路へ、そしてオフ会へと急ぐメイト達をはるかに見下ろす43階は、貸切であった。

もあ「すぅちゃん!これ最高っ!どれもみんな美味しくってもう止まらない!」
すぅ「もう、もあちゃん食べ過ぎよ。少しはひかえないと、またパンパンって言われるわよ」
もあ「大丈夫だって。ようやく東京ドームも終わったところだし、これまで我慢してきたんだから」
すぅ「まあね。キツネ様のお告げもなかったし、少しゆっくりできるのかな」
もあ「でもリハーサルであんまり学校行ってなかったし、修学旅行もあるし、あっという間にレッチリさんのツアーが来ちゃうかもね」
すぅ「そうよ、油断はできないからね。ところで…ゆいちゃんは?」
もあ「あれ、どこに行ったんだろう。ゆいはちっちゃいから見えないか、おやすみしちゃってるかな」
すぅ「あ、うそ!ゆいちゃん、会長さんのところにいるじゃない!もあちゃんの食意地に付き合ってたら出遅れちゃったじゃないの!」
もあ「もあのせいにしないでよぉ。いこっ、ゆいのところに」
すぅ「うん…ちょっと待って、なんか真剣な顔で話してるよ」
もあ「ちょっと割って入りにくいね。とにかく近くに行ってみようか」

つい先ほど、会場に真紅の薔薇の花束を抱えてやってきたその人物と、ゆいは何やら話し込んでいたのであった。


「私立さくら学院小中学校 保健室」第1章

2017年 1月。

大学進学を決めた佐藤日向の元には、さくら学院歴代生徒達からのお祝いの言葉と共に、各自の進路に関する相談が相次いだ。

さくらの先輩達は、高校卒業と共に芸能活動に集中している。看護師への夢へ向かい事務所を離れたJKもいるし、一緒に活動した後輩のうち、2学年下の3人は、卒業と同時に引退した。

そんな中で、日向の進路は、芸能活動しながら大学生もするということが可能であることを示す先例となった。

日向にとって、それは特別なことではなかった。なぜなら彼女は、小学生の時から、学業と芸能活動を両立してきたのだから。

日向「今度は誰からの電話かしら。あら。」

ディスプレイに表示された名前に、ちょっと嬉しくなる。

日向「もしもし?いやーご無沙汰してます!え?ありがとうございます!」

その相手とは少し前に仕事でも共演したが、すぐに当時に帰ることができたのは、信頼の証なのか、それとも成長していないだけなのか。

日向「え?教職ですか?いやわかんないですよ。まだ入学もしていないし、どんな授業かもわからないですから」

突然の話に、少し戸惑う。相手は大学時代に教員免許を取っているとは聞いていたが、まさか入学前の今から、資格を取るかなんて、わからない話である。

日向「あの子がそんなことを言い出したんですか。でも私と先生だけじゃ、どうしようもないでしょ?あ、あの子達も同意して目指すんですか。そうですか…考えておきます」


私立さくら学院小中学校 第2章

2017年2月12日。さくら学院バレンタインライブ当夜の森ハヤシ家。

「30代最後の誕生日か…アイツらから仕掛けられると、心臓に良くないな」

今年は生徒達からの提案もあり、同じ事務所の星野源の「恋ダンス」を自らも披露した後、自らの誕生日のサプライズを仕掛けられた。

今まではあえて生徒と先生、という距離感を保ってきたが、今回は演者として拘った。会長室に呼び出されて以来、自分が何をできるのか、ずっと考え続けてきた。

芸人あがりのオッさんでしかない自分のことも、生徒達、卒業生と同様に気にかけてくれ、生徒達と共に祝ってくれた父兄さん達に感激し、気がつけば脚本家という立場で、さくらの生徒達を推していくなどという事を口走ってしまっていた。

今しかない。そうだ、彼女にも電話しなきゃ。

自身の誕生日に浸ってばかりもいられないと電話を手にした。

森セン「田野さん?お誕生日おめでとうございます!俺?30代最後にしていい思いしてきたよ」
田野「森さんいいなぁ。そうそう、私も佐藤ちゃんからプレゼントもらっちゃった」
森セン「俺にはツイートだけだよ」
田野「まあ、佐藤ちゃんとは姉妹ですからねぇ」

ラジオで永年番組を一緒にやってきた田野アサミ。アミューズのアイドル養成ユニットの一員だった彼女は、生徒達からすれば、Perfume同様の大先輩である。番組にゲストとして出演した生徒達の事も気にかけてくれ、本格的なアニメーションでの声優デビューとなった佐藤日向とは姉妹役で共演してくれた。

森セン「あのさぁ…来月のエンディングテーマなんだけど、俺推したい曲があるんだけど」
田野「森さんが自ら言い出すなんて珍しいね」
森セン「身内の曲で申し訳ないんだけど…田野さんからもよろしく。」


私立さくら学院小中学校 保健室 第3章

2022年7月1日のベビメタ経済ニュースから。

『アミューズ、学校経営進出へ』

「アミューズ(4301)は、2023年4月に小中学校の運営に参画する。
小学5年生から中学3年生までの5学年一貫教育を特色とし、一般生徒と共に同社所属の子役タレント「さくら学院」メンバーも在籍することになっている。
学院長には元同社所属歌手の武藤彩未氏、教頭に早稲田大学出身で脚本家の森ハヤシ氏が就任する。同ユニット出身の女優、モデル、歌手による在校生へのレッスンの他、一般の授業カリキュラムや担任も、教員免許を取得した同ユニット出身者が加わる予定という。」


日向「とうとう発表になったかぁ」
彩未「弟の騎手デビュー戦で帰国した時に日向から呼び出された時は何事かと思ったわよ」
日向「雅くん…いえ、武藤雅騎手も今ではスター騎手ですものねぇ」
彩未「やはり、同期に強力なライバルで親友がいないとダメなのよ。1年浪人して苦労したのも、弟にはよかったんじゃないかしら」
日向「さすが学院長、重みのあるご発言です」
彩未「ところで、一般教員枠の卒業生の準備はどうなの?」
日向「ゆなのは今、芸能活動のリハビリを兼ねてグラビアの撮影に行ってます。問題は…」
彩未「来春新卒の3人かぁ」
日向「しらさきとりのんはともかく、大賀が…」
彩未「聞いてる。駄々こねてるらしいわね」
日向「大賀のちっちゃい子好きは有名だったけど、幼稚園の先生じゃなきゃイヤだって…」
彩未「仕方ない。すぅちゃんに説得を頼もうかしら」


私立さくら学院小中学校 保健室 第4章

2022年9月。

「ふ〜、お腹すいたぁ。たけのこの里、開けちゃおうっかな」

残業中の杉崎寧々は、周囲を見回してから、袖机の引き出しを開けた。医療の現場に入っても、寧々の食いっぷりは相変わらず、中には大量のお菓子が入っていた。

担当する小児病棟では、入院中の子供達の遊び相手でもあり、さくら学院時代と変わらぬ歌声は院内でも評判となっており、こっそり差し入れのプリンを持ってくる大人の患者も少なくない。

「あ〜、ねねどん、またおかしたべてるぅ」
「ねねどんもダイエットするから、いっしょにがまんしようねっていってたのに」

子供達がナースステーションを覗きこんできた。

「わ、あんた達!もう歯磨き終わったでしょ!」

狼狽える寧々を尻目に、子供達は室内へ入ってくる。

「こ、これはね、ねねどんのお友達の「もあちゃん」の好物なのよ。ねねどんね、もあちゃんは今、どこにいるのかなぁって考えてたの」

「しってる、MOAMETAL!」
「もあちゃんはとおくにいるの?」
「なんだ、おまえしらないのか!MOAMETALはせかいじゅうのテレビにでてるんだぞ」
「うんしってる。でもあたし、ねねどんの「めだかの兄妹」のほうがすき」

こんな小さな子でも知っているなんて、やっぱりあの3人はスーパーレディだなぁと思いながら、でもこの病棟のスーパーレディ目指し、私もがんばんなきゃね。

3人に想いをはせていた寧々は、子供達の一言で現実に引き戻された。

「あした、かんごしちょうさんにいっちゃおうかなぁ」
「え、それだけは止めて!お願いだからぁ」
「じゃあ、いつものよんで」
「ぐぬぬ…仕方ない、じゃあベッドに戻ってなさい。本を持ってすぐに行くから」

子供達を病室に戻すと、寧々はいつもの本…ボロボロになった「絶対可憐チルドレン」と、ナースコール端末を持って部屋を出た。


私立さくら学院小中学校 保健室 第5章

2022年10月30日。

さくら学院祭は、今やキャパシティ5,000名級の大型会場。今年は東京国際フォーラムホールAで、2日間で4公演という規模になっている。

インターンとして舞台スタッフに参加中の磯野莉音と、エースとして虎姫一座を引っ張る田口華のスケジュールを考慮し、恒例の秘密会であるOG会は、昼公演の後にホールCを貸し切り。

報道発表以来、OG間で連絡を取り合う機会は増えていたが、全員集結はこれが初めてである…はずだが。

「ちょっと、さきちゃんはどこへいっちゃったのかしら」
中元すず香が心配そうに白井沙樹へ聞く。

「咲希ちゃんなら、在校生にダメ出ししてましたけど」
「え、さっきはちゃおガールの子供達と遊んでましたよ」

横から黒澤美澪奈が口を挟む。

「呼んできましょうか?」山出愛子が言おうとした矢先、杉崎寧々に引っ張られながら大賀咲希は到着した。

「小等部の子達も、ちゃおガールの子達も、ちっちゃくてかわいいんだもん」
「たまにだからそう思うんだよ。私みたいに毎日子供達といると、憎たらしい時もあるんだからね!」

遅刻の言い訳が咲希らしいが、小児病棟で子供達と格闘中の寧々に窘められ、首をすくめた。

「揃ったかしら?全員起立!」

仕切るのは三吉彩花。一度、新谷ゆずみに司会をさせたのだが、あの訛りが武藤彩未のツボにハマってしまい、お蔵入りとなったのであった。

「みんな、それぞれの道でスーパーレディの道を突き進んでくれているな。これからは、後輩達をスーパーレディに育てる事も、一緒に始めるんや」

倉本美津留校長は、全員を見ながら語った。

「では早速、新生第1期の体制を発…」
「それでは発表は私から」

教頭に内定している森ハヤシが噛んだところで、いつにまにかスーツに着替えていた水野由結が、模造紙を広げだしたのであった。


私立さくら学院小中学校保健室 第6章

2023年3月25日。

ここ数年、さくら学院はアミューズが出資する横浜アリーナで、2022年度のRoad To…を締めくくる事が恒例となった。 

いよいよ新年度から、「さくら学院小中学校」が開校し、成長期限定ユニットとしての「さくら学院」としては、最後のイベントとなることから、今回は全国の映画館でライブビューイングも実施された。

今回は卒業と同時に芸能界を退いた卒業生もステージに登場し、ミニパティ、スリーピース、ロヂカは歴代メンバーと現役メンバーによるメドレーを披露、購買部は、歴代メンバーが客席からバズーカを発射した。

そして…武藤、三吉、松井により「3.a.m.」が披露され、古参父兄を悶絶させた。

その夜、まぶたが少し腫れぼったい、父兄達の間では、こんな会話が続いていた。

「ベビメタと華ちゃんは出ませんでしたね」
「華ちゃんは浅草、ベビメタはUSツアー中ですから仕方ないとはいえ」
「二代ミニパティがいなかったのは残念てすね」

「…やはり、新しい学院に、彼女達は参加しないのですかね」
「復帰メンバーは何らかの形で先生をするみたいですけどね」
「ゆいちゃんが一番望んでいた形だと思うんだけどなぁ」

この日のスポーツ紙の芸能欄には、2022年度末卒業生の紹介と共に、杉崎、磯野、大賀、白井のアミューズ復帰という記事が掲載されていた。