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bm-まーと


『魔法少女ゆい☆もあ&すぅ!
』(下) 
まーと作

 ⑩プリンセス

「・・・えっ?何の話なの?よく分からないんだけど・・」
「まあそうだろうな。ところでお前、小等部に上がる前の事って覚えているか?」
「えっ⁉︎・・実は由結はうんと小さい時の記憶が曖昧なのです」
「じゃあ学院の寮に入ってから家族の誰かに会った事あるか?」
「・・よく考えたら無いです・・長いお休みに実家に帰ろうとするとなんだかんだ邪魔が入って帰れた事が無いです・・そうこうしているうちに大抵もあちゃんが声をかけてくれて旅行に行ったりもあちゃんちに行ったりしてまあいいやって感じでうやむやになってしまう事が殆どでした」
「なる程、じゃあ電話とかメールは?」
「・・かけても大体留守電か繋がってもトンチンカンな事を言われてしまいには一人前の魔女になるまで帰って来るなとか言われちゃって・・メールもそんな感じ。向こうからかかってくるのは兄様だけでした」
「そりゃあそうだ、そいつは多分音声を合成して作っておいた応答パターンから適当に返してるだけだしメールもそうだ。普通、小中学生が如何に寮生活しているとはいえ海外でもない限り家族に会えないなんてあり得ないだろ?おかしいと思わなかったのか?まあ会える訳も無かったんだけどね。何故ならあの家族はお前の学院への入寮と共に『解散』したからな。お前にまつわる記憶を消されて」
「えっ⁉︎家族が解散?記憶を消す?どういう事なんでしょう?お父様とお母様はどうしたのですか?」
「幸いにも邪魔立てしそうな奴はいなくなったから最初から説明してやろう。お前も何も分からないまま囚われるのは納得いかないだろうしね」
「囚われてしまう事自体納得いかないけどとりあえず教えて下さいお願いします」
「ある日僕に仕事の依頼が来たんだ。依頼の内容はこうだ、ある女の子が魔法使い認定されてさくら魔法学院に入学するまで家族になりきって一緒に暮らす事」

「条件は、一般家庭の普通の兄として振る舞う事、何があってもその子を守る事、そしてその子が入寮したらその子に関する記憶を消される事。おかしな依頼だと思ったんだけどね、毎月振り込まれる金額が大きかったしよく考えたら長期間になるとはいえ普通に生活しながらおチビちゃんのお守りをすればいいだけの簡単な仕事だし、それにその子が入寮してミッションが終了すればその後大抵の願い事を叶えてくれるっていうボーナス付きだったから受けたのさ」
「その依頼は何処からきたんですか?」
「網由津グループさ。主に魔法使いの教育機関、芸能関係分野において力を持っている大グループだよ。さくら魔法学院もここの持ち物さ、それくらい知っているだろ?」
「えっ⁉︎そうなんですか?」
「・・・ま、まあいい。とりあえずここはビッグカンパニーの筈なんだけど色々と謎が多いのさ」
「謎?さっきも網由津王家だとかなんだか言ってませんでした?」
「こんなに名の通ったグループなのに資本形態、上位の者が誰なのか?調べてみても必ずどこかで途切れてしまう、そのくせ国家との関係も取り沙汰されていたりする。何を隠そうメタルネーム持ちなど優秀な魔法使いが産まれる家系とか大体把握していて大方がグループの教育を受けてグループの仕事に就くようになっているんだ。だからそこでは当然MIKIKOさんやもあちゃんも僕とは《同志》と呼び合う関係だったんだけどね。もっともさっき死んじゃったから元同志だけどね」
「くっ・・」由結は怒りがこみ上げ唇を引き締めましたが堪えて疑問を口にしました。
「ゆいも一応メタルネームあるけどそんな活動知らなかったよ」
「その活動と言うのは広い意味では世界の秩序を魔法によって保つ事、突き詰めて考えるとその秩序を守る力を持っている王家を助ける為という事になる」

「大方の同志は僕も含めてそれとは知らずにグループの仕事をしているのだが、おまえはそのグループを動かす側の人間だからね。本来なら王族の者の能力が覚醒すると言われている16才の誕生日すなわち今日、この屋敷の主である《長老》と呼ばれる一族の大御所からその辺りの説明と本当の身分が伝えられて正常な記憶を戻される筈だったのさ」
「ゆいがグループを動かす側の人間?長老?記憶を正常に?・・ますます何だか分からないわ」
「僕も任務に就いている間ずっと疑問だった・・なんの変哲も無いこの幼女が何者なのか?こんな面倒なプロジェクトを組んでまで育てなければならないのは何故か?任務期間中独自に網由津グループについて調査をしていたんだけど結局大した事は分からずにそこまで辿り着けなかったんだ。父親役と母親役の奴らは、まあコイツらは他人同士だと流石にマズイから子供のいないリアル夫婦だったんだけど、コイツらはグループの重役か誰かの醜聞絡みの隠し子なんじゃないか?って考えていたようだけどね。まあそんなこんなで月日は流れおまえも学院に入寮していざ記憶改変を施術するという日がきた。僕はこれが最後で最大のチャンスだと思ったんだ。記憶を操作出来る魔法使いっていうのも驚きだったけど少なくてもこの人物は色々知っている筈だからね。」
「記憶を操作する魔法・・そしてお父様とお母様が他人・・」
「そう、おまえが小学生になる前の記憶は長老と呼ばれるこの人物によってブロックされておまえの知ってる我々偽装家族へとすり替えられたのさ。」
「な、なんて事なの・・!」

「一応家族構成は本物家族と同じになっているらしいけどね」
「ゆいの本物家族は一体何処にいるの?」
「まあ待て、順を追って説明してあげるよ」
「・・はい・・」
「この洋館は網由津家の別宅らしくてね、長老は此処に住んでいるんだ。そう、記憶改変の日も僕は此処にやって来た、ボイスレコーダーを忍ばせて」
「ボイスレコーダー?」
「ああ、長老に色々と疑問点を聞いてやろうと思ってね。もし記憶が改竄されても、此処に来た事や長老の事も忘れてもその後の自分に何かを託したくてね。会話をコッソリ録音してやろうと思ったのさ。長老の奴はそりゃあもう喜んで何でも話してくれたさ!こんなだだっ広い豪邸に永いこと隠居してるらしいからね、話し相手も欲しくなるってもんさ。僕が孫よろしく愛想よく聞けばなんでも知りたい情報は答えてくれてね。ま、どうせその記憶も消すんだからその前ならいいだろうっていうサービスのつもりもあったんだろうけど・・」
「それで兄様は記憶は消されたけど内緒で録音していた記録で色々と知ったという事ですか?」
「いや、ところがその魔法は僕にはかからなかったんだな」
「えっ?どうしてですか?」
「さあ、僕にもよくわからないけど僕は疑り深い性格だからね、そのてのオカルトじみた魔法は通用しなかったのかもしれないし、ただ単に僕の方が魔力が上だったのかそれは分からないけど、とにかく長老のかけた魔法はそのまま奴自身に跳ね返って僕と話した事や僕自体の事も分からなく記憶が改変しちゃったようだったよ。『あれ?君は誰だ?』とか言い出しちゃってちょっとマヌケで笑っちゃったけど僕には大変好都合だったのさ」

「そのたった今聞いたばかりの驚くべき情報によって僕はある計画を思いついていたからね。そしてそいつを実行するにはなるべく僕の事を知ってる奴が少ない方がいい」
「もあちゃん達を殺したのはその計画に関係あるの?」
「大有りだね。同志MIKIKOさんやもあちゃんは王族に近しい血筋らしくてね、代々王家の人々を護ってきた由緒正しい一族の者らしいんだな。こいつらは今日を過ぎると不死身の兵隊となって僕の前に立ちはだかる筈だったのさ。だから今のうちに殺る事が出来てマジ良かったぜ」
「王家の人々を護る?不死身の兵隊・・?」
「察しが悪いな、我がかりそめの妹よ。さっきから言ってるがお前は王族の人間で知らず知らずのうちに護られて育ってきたんだよ。同志もあちゃんの今までの行動を思い返してみるといい」
「そういえばもあちゃんは寮でもずっと同室だったしいつでもゆいを庇ってくれた・・どんな場面でも前に立ってゆいが嫌な目に遭わないようにしてくれていた・・」
「ほらほら、思い当たるフシが沢山あるだろう?同志もあちゃんは偶然出会ってたまたまお友達になった訳でもお前のお友達だから優しくしてくれてた訳でもないんだぜ。あの子は生まれた時からお姫様を護るように教え込まれて育ってきて然るべくタイミングで王族警護の使命を果たす為にお前の前に現れただけなのさ」
「そ、そうなんですか⁉︎」
「そうだよ、だから長期休暇なんかであの子のうちに連れてかれたりしたのは偽家族が解散してる事がバレない為とその方が警護し易いからだぜ」
「そ、そんな・・」
「あと同志MIKIKOさんな、長老によると彼女と同志もあちゃんの2人がお前専属の警護〈ガーディアン〉と呼ばれる特別な付き人で、同志MIKIKOさんは警護プラス魔法の教育担当だったらしい」

「彼女自身は火の属性で攻撃力もある魔女だけど相方の同志もあちゃんは水属性、癒しや防御には強いけどそれだけじゃ心配だから強い味方になる人材を探して育ててたんだろうな。それがここに転がっているSU-METALって訳だろう。多分SU-METAL自身にはお前の真の身分とかはまだ知らせて無かった筈だけど、最強のガーディアンになるべく鍛え上げて色々経験を積ませた筈さ。おかげで僕の愛しいカープスや仲間がとばっちり受けたけどな。そしてお前の16の誕生日に間に合わせてさくら学院に帰ってきたっていうのが筋書きだと思う」
「・・今までの何気ない生活が全部仕組まれていた・・って事・・?」
「ああそうさ。お前は王位継承に最も近い女性の王族らしいからね。ちょっと前に羽根が生えて飛べたって言って喜んでただろ?それは網由津王家の証なんだよ。風属性を統べる極東の王族、網由津家の完成された姿さ。普通の魔法使いにそんな羽根生やす奴いないぞ」
「・・そっか・・そうだったんだ・・ゆいが・・ゆいがお姫様だったんだね・・・・」


 プリンセス⑵

「そっか・・ゆいがお姫様だったんだね・・」
「ようやく理解したようだね」
「それじゃあゆいを生け捕りにするのは王家から身代金を取る為・・?」
「まあそれも悪くないけどもっと魅力的な事さ、ヘッヘッヘ」
「えっ、まさか、そんなっ⁉︎嫌ぁっ!」
「お前今何かはしたない事を考えただろう?」
「血が繋がっていないと分かった今それしか考えられないわっ!」
「なんでこの僕が女ごときにしかもお前のような小娘に欲情しなくちゃならないんだよ!」
「あっ、そっか、偽兄様は男色家でしたね。ホッとしたけど超キモイ上にそこはかとなく負けた気がします」
「キモイ言うな!っていうかお前だってさっき女同士SU-METALとペロペロしたりしてただろうがっ!」
「普段はしてません!さっきはたまたまですっ!それに女同士愛し合うのは美しく、尊く、そして当たり前の事じゃあないですか!」
「は?何言ってんだコイツ?・・あっ、そうか!そう言えば長老が言ってたな、王家の直系は然るべく相手との結婚が決まるまでは同性愛を推奨して育てられるって」
「何でまた?っていうか偽兄様も王家の人?」
「違うわっ!僕の場合人が人を愛するのに男も女も関係無いっていうポリシーからだ!」
「なんかいい事言った風だけどただのホモ野郎ですよね?」
「お前やっぱり刺すぞ!ってか違うわ、王家の場合不用意に血族が増えるのを抑制する為だ。昔歴代の王族にも色欲の強い者が何人かいてあちこちで子供こさえる王子やら父親知らずの子を産んだりする姫様やらのせいで色んな特殊能力を持ったヤバい奴が増えちゃったからとりあえず異性への関心を抑える為にそうしたらしいのさ」
「ああ、だからもあちゃんが寝る時読んでくれる本は百合モノばかりだったんですね!」
「どんな読み聞かせだよっ!因みにその時増えちゃって散らばった奴らの末裔がメタルネーム持ちの血筋なのさ。なので王家の方は99%そいつらを把握してるって訳さ」

「そうなんですか?では偽兄様も一応血が繋がってるのですね?」
「もう何世代も前の事だろうから限りなく薄いけどな」
「それで偽兄様、特殊能力とは一体・・?」
「長老によると王族特有の能力は幾つか有るらしい。さっき話にでた羽根やら瞬間移動能力の優秀さ、それと王たる所以の一子相伝の超特別な能力が有るらしいのだがこれは王本人とガーディアンしか知らないらしい。しかも王の子供達の中でも王位を継承出来る1人にしか遺伝しない秘儀中の秘儀な魔法らしくて長老も知らないそうだ。しかしながら言い伝えによるとアレっ?って程地味な魔法らしいのだが・・」
「それで偽兄様はその魔法を出来るかもしれないゆいをとりあえず生け捕りにしたと・・」
「ふん、どんな魔法なのか、その上有るかどうかも分からないなんていう能力欲しさにこの僕が何年もかけて計画をたてたりすると思うのかい?僕が欲しいのはそんな能力ではない。僕が欲しいのは・・」偽兄さんがそこまで言った時です「うっ・・」と小さい吐息が聞こえてきました。
「⁉︎」
「⁉︎」
2人がハッとして息を飲んだ瞬間、由結に抱きかかえられている亡骸だった筈のSU-METALがパチッと目を開けました。
「おや?此処はあの世って所かぁ?ゆいちゃんにそっくりなマジ天使ちゃんがおるわ〜」
「・・お、お、お、」
 驚愕の表情で目を見開いて吃っている由結に向かってSU-METALはムクッと半身を起こすと両手を広げて「さあ、マジゆいちゃん天使ちゃん!お姉様と呼んで飛び込んでらっしゃい!」と残念な事をのたまいました。
「お、お、お、お化けイヤァァァァーー!恐いィィィィーー」お化けが苦手でパニックになった由結が振り回した渾身の右ストレートがSU-METALのアゴを捉えました。

バキッ「ぶへっ!」ゴン「きゅう〜」鮮やかな由結のKOパンチが決まってそっくり返ったSU-METALは床に後頭部をしこたまぶつけて再び動かぬ人になってしまいました。
「素晴らしい!!エクセレント!!グレート!!コレだよっ!この力なんだよ僕が求めていたのはっ!!」
「偽兄様、確かにゆいは案外筋肉質で偶然にも腰の入ったイイ打撃を繰り出してしまいましたがそんな褒められる程凄い力でもありませんでしたよ?何を盛り上がっているのですか⁉︎そんな事より大変です!すぅちゃんが化けて出ましたよ!偽兄様のせいです!どうしましょう・・?」
「何を言ってるんだお前は!SU-METALは化けて出たんじゃない、生き返ったんだ!」
「偽兄様の方こそ何を言ってやがるんでしょう?すぅちゃんは偽兄様の超卑怯な背後からの不意の凶刃に斃れて恨みを残して死んじゃったじゃあないですか⁉︎」
「確かにSU-METALは僕が確実に急所を刺して仕留めた。一度死んだのは確かだ。だが生き返ったんだ!他ならぬお前の魔力で!」
「えっ⁉︎ゆいの?魔力で・・?」
「その通りだ!なんならSU-METALの傷を見てみろ」由結は言われるまま恐る恐るそーっとSU-METALの胸部の血で染まった鱗状の鎧部分の裂け目を広げてみると其処にはナント!傷一つ無い滑らかな白い肌が有るだけでした。
「ええっ!なんで⁉︎どうして⁉︎」
「あははは、コレが王族直系の特殊能力さ!」
「ゆいは特に何もしていないのに⁉︎」
「長老の説明によるとだな、能力が覚醒した王の子供達のDNA情報を含んだもの、例えば汗や唾液などの体液や髪の毛などを体内に取り込んだ者は、それを提供した者が死ぬまで何があっても生き続けるのだ」
「・・・はい?」
「僕も長老にその話を聞いた時冗談かと思った。流石にそんな話は嘘だろ?って鼻で笑ってしまったよ。そうしたら長老の奴いきなり脇に控えてた執事の腿に机に置いてあったペーパーナイフを突き刺したんだ」
 

「うわっ、痛そうですね?」
「ああ、確かに執事はのたうちまわっていた。流石の僕もひでぇ事するなぁって思ったんだが、しばらくすると傷が綺麗さっぱり無くなっていたんだ。それはもうビックリしたよ!よくよく聞いてみるとこの能力は死んでしまった場合でも多少時間はかかるけどまた生き返るって言うんだから更に驚いたよ!」
「本当だったんですか⁉︎」
「ああ。長老の奴はお前からすると曾祖父さんの弟、つまり今の王からすると2代前の王の兄弟だった訳だな。それで奴には世話をしてくれる執事と女中がいるんだがそいつらが今で言うガーディアンとして奴の盾となって護ってきたらしい」
「偽兄様、それならばその場で長老様のDNAだかを取り入れて不死身だかなんだかになれば良かったのではないですか?」
「ふん、そんな老い先短い奴と運命を共にしてどうする?それにいくら男色家の僕でもあんなジジイの体の一部を摂取するのはゴメンだね。そもそもその不死身人間を作る力は10代のうちだけだと言うんだ」
「・・だからゆいを・・」
「そういう事だ。なんだかよくわからないけど家族ごっこさせられてた幼女にそんな素敵な魔力が有ると判った時は天にも昇る気分だったよ!SU-METALは僕が殺る前にお前の口元ら辺をペロペロしただろ?それで図らずもお前の唾液だとか汗だとか角質だとかを体内に取り込んだ事になったから多分生き返ったんだ。全く運の良い奴め!」
「良かった、本当に良かった!すぅちゃんが生きてて、お化けじゃなくて」由結は気絶しているSU-METALを抱きしめてはらはら涙を流しました。
「喜んでいるところ悪いがこいつが息を吹き返したら厄介だから今のうちに一緒に来てもらうよ」
「嫌ですっ!どうしてもと言うのならすぅちゃんも一緒に連れていきます!」
「そいつは出来ない相談だな、危険過ぎるぜ!僕がこの計画にどれだけの労力を使ってきたか知ってるのか?」

「じゃあいいです、すぅちゃんは置いていっても・・生きてただけでもものすごく良かったです」
「あ、一つ言い忘れたけど一度死んだ奴はお前のDNA情報を含んだものを摂り続けないと数日で死ぬよ」
「ええっ⁉︎何でですか⁉︎」
「結局はお前の魔力で生命維持しているだけだからね。お前から魔力の供給が絶えたらそりゃあ死ぬよ」
「いやぁぁっ!すぅちゃんせっかく生き返ったのに!やっぱりすぅちゃん連れて行かなきゃゆいも行きません!」
「ああ?お前何言ってんだ?頭沸いてるんじゃないか?」
「え?いやぁそれほどでも」
「褒めてないからな!そもそもお前がSU-METALをKOしなければ今頃形勢逆転していたかもしれないんだぜ?」
「ああそうだった!ゆいのバカっ!バカっ!」
 由結は両手で左右から頭をぽかすか叩いて悔しがりました。この仕草が可愛くて曲の振り付けに取り入れられるのだがそれはまだ先の話である。
「それはそうとだな」そう言って偽兄さんは鎖の付いた犬の首輪的な物を何処からか出してきました。
「偽兄様、それは何ですか?」
「ん?これか?これはね、こうしてっと・・あ、ちょっと髪の毛上げてくれる?うん、そうそう」
「?」
 カチャン!「これで良し!と」
「ゆいの首にいったい何をしたんですか?」
「これか?これは東欧の闇魔術の店で見つけた激レアアイテムを改良して作った移動系の魔力を消す首輪だよ、高かったんだゾ!いやぁお前が昔のように素直な良い子で助かったよ!瞬間移動とかされたらもう捕まえようがないからな」
「しまった!その手があったのかぁ!」
 由結は両手で左右から頭をぽかすか叩いて悔しがりました。この仕草が可愛くて以下同文。
「大体に於いて高等部に上がった位から飛行やら瞬間移動やらの特訓とかさせられなかったか?」
「あ、そう言えばやたらともあちゃんにそういう状況に追い込まれてやらされた!」
「だろ?今日だってこの部屋を外部から浸入不可の状態にされてんだろ?」

「そしてもし何かあったらすぐに学院に瞬間移動するようにとか言われてたんじゃないのか?」
「ああそうだった!MIKIKO先生に言われてたんだった!」
「ふぅ危ない危ない、学院に逃げ込まれたらアウトだったな。あそこはお前のおかげでセキュリティが頑丈だし男子禁制だからヤバかったぜ。まあそもそも今日を狙ったのもお前の16のお誕生日っていうのと、必ず学院から出て此処に来るって分かってたからだけどね」
「うわーん逃げ損ねたよぅ」
「残念だったね我がかりそめの妹よ、お前はこれからはこの僕に不死身の魔力を提供するだけの奴隷となって貰うよ」
「そんな立場になっちゃうくらいならいっそ舌噛んで死んじゃいます!エイっ!・・あがっ」舌を噛もうとしましたが口が閉じませんでした。
「フフフ、そんな行動は想定内だよ。その首輪には自殺防止の魔力も含まれている。それに今お前が死んじゃうとせっかく生き返ったSU-METALも結局死ぬ事になるんだぜ、いいのかい?ま、せいぜいお前にはうーんと長生きしてもらわないとね、ククク」
「嫌ぁーっ!」
「さあ来るんだ、お前を閉じ込めておく為の秘密のアジトも用意して有るんだ。心配しなくてもテレビとシャワー位は付けてやる」
「ちょっと待って下さいっ!まだゆいが聞いてないお話がいくつかあります!」(・・と、言いつつなるべくここに居る時間を引き延ばそう・・さっきすぅちゃんの傷を確認した時そういえばこの前にもこんな事があったって思い出した・・そう、空から落っこちたもあちゃんがあんなだった・・もしかしたらもあちゃんはもう不死身なのかもしれない・・だったら生き返ってここに来てくれるかも・・)
「何が聞きたいんだ?話なんかこれからいくらでもする時間があるんだからとりあえず行くぞ!」
「待って下さい!まだ何で偽兄様とかと家族になってたかとか教えて貰ってないです、せめてそこのところを・・」

「ちっ、しょうがないな。手短に教えてやるからよく聞いておけ」
「はい、偽兄様」
「長老によるとだな、王族が一つ所で暮らした場合、何かあって襲われたりして全滅するリスクを避ける為にバラバラになってるらしい。特に16才前の子供は自分で身を守る強さをまだ持ち合わせていないから保護環境下で育てられるようだ」
「はあ・・」
「その際、なるべく平均的な庶民、平民の暮らしをさせるらしい」
「そうなんですか?」
「ああ。その昔、王族だからといって甘やかされて好き勝手し放題で育てられた王子やら姫が継承者になった時代は世の中が荒れてしまったという反省から16になるまでは王族というのを伏せて慎ましやかに育てられるらしい。どうも清廉潔白な者でないと王特有の魔法ってのが活かされないらしいんだな」
「はあ・・」
「お前の場合人の良い常識人で子供がいない夫婦が両親役に、身寄りの無い男の子が弟役に、そしてちょいと年上だけど魔法に長けて頭が良くてイケメンの僕が兄役に選ばれたのさ」
「偽母様と偽父様、偽弟に会いたいなぁ・・今は何処にいるのかなぁ・・」
「ああ、あいつらならお前が覚えているあの家にそのまま住んでるよ」
「本当ですかっ⁉︎」
「ミッション終了時の報酬に僕は音楽プロデューサーになる為に見聞を広めると言う名目で欧米への長期留学を希望して人知れずこの計画の準備をしたり、その過程でカープス達と出逢ってやりたい放題やってた訳だが、あいつら夫婦は偽家族の為に建てた家を報酬に希望していたからそのまま住んでるのさ。因みに弟役のガキは3DSを貰ってたな」
「フフ、あの子可愛いわね」
「それとお父さんとお母さんが欲しいって言ってたから子供が欲しかった両親役の奴らと希望が一致してそのまま仲良くあそこに住んでるよ」
「ああ良かった!皆んなに逢いたいなぁ」
「ふん、止めとけ。お前には懐かしくてもあいつらにはもうお前は知らない他所の女の子なんだよ」

「何でっ⁉︎・・何でゆいに関する記憶を消さなければならなかったの?・・色々な想い出だってあったのに・・」
「そいつは決まってるだろ、僕みたいな人間がいるからさ」
「偽兄様みたいな?」
「そうだ。王家の長い歴史の中では略取、拉致監禁の繰り返しだったらしい。だってそうだろ?お前ら王家の者を取り込んだら死の恐怖から解放されるんだぜ?人類にとってお前らは究極のお宝じゃあないか!」
「ああ・・」
「本来ならお前達王族が身を守らせる為に不死身の兵隊を生み出す必要から発達した魔術だろうけど他人からすればそんな事は関係無いからね。今まで優しく献身的に世話していた者がこの秘密を知った途端卑劣な誘拐魔に変身してしまう事もざらだったから長老のように記憶を改竄出来る者が居る時代はそれを最善の策としてきたんだよ」
「そんな・・」
「まあ大抵事情を知るのは身近な者とか時の権力者とかそんな感じで中には偽母親が情が移っちゃって手放せなくなって王子だか姫だかを連れて落ちのびたなんて事もあったらしいからね、記憶を消すようになったのはしょうがなかったんじゃないか?むしろ優しい対応だね。僕だったら秘密を知った奴は皆んな殺しちゃうけどね」
「そんな・・」
「ああそうそう、我がかりそめの妹よ、お前が下手に逃げ出したり面倒な事をすると偽両親と弟の一家惨殺のニュースを見る事になるからな!よーく覚えておくんだゾ!」
「ひ、酷い・・」
「さーてと、そろそろ行こうかな、っと。まずは不死身人間になって一度死ぬかな」
「えっ?いきなり死ぬんすか?」
「そろそろマカブラの正体がバレてくる頃だからいっぺんマカブラとしての死体を晒しておいてその後生き返って別人として人生を謳歌するのさ!」
「人殺しの片棒を担ぐのは勘弁ですぅ」
「ふん、やかましい!さっきも言った通り僕は女性の尊厳を踏み躙るような下卑た事はしないから安心しな。ま、人しての尊厳は全く無いけどね!」


(11)から〜の、クイーン(未)

「人としての尊厳は無いけどね!」そう言って爬虫類の微笑みを浮かべてウヒャウヒャ笑うと偽兄さんは首輪の鎖を引きました。
「あうっ」思わず前屈みになった由結はお散歩を終わらせたくないいぬの様になってしまいました。(・・こんな屈辱に負けてはいけないわ!例えゆいが何処かへ連れ去られてもきっとすぅちゃんはそのどうぶつ的嗅覚でその命が尽きるまでにゆいの事を探し当ててくれる!と、いいけどな?きっと、きっともあちゃんも生きててくれてゆいの事を見つけてくれる!と、いいけどな?・・)
「ほら早くしろ!いい加減諦めるんだ!」グイッと更に鎖を引かれて由結はぺちょんとしゃがみ込んでしまいました。(・・もしかしたらもうこの残忍な偽兄様に一生死ぬまで人としての扱いなんてされないのかもしれない・・・それでも希望を捨てず誇りを持っていこう。もあちゃんが言ってた、こんな時こそ笑顔でって。笑顔は人にしか出来ない素敵な感情表現だって。それならばゆいは最高の笑顔でせめてもの反抗をしよう、人間として。それがゆいのプライド。それがゆいのレジスタンス。さあ好きなものを思い浮かべて・・)
「ト・マ・ト」そう呟いてひまわり以上の笑顔で偽兄さんを見上げました。
「ん?何だ?何笑ってるんだ?そうか今度こそイカれちゃったか?けけけけけ、そんなイイ顔してもこの僕には通用しな・・・・・・い・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ん?」
「・・・す・・・・す・・・」
「す???」
「す・・・・す・・・・・すみませんすみませんごめんなさいごめんなさい超ごめんなさい本当ごめんなさいアタシが悪ぅございましたマジごめんなさい許して下さい許して下さいもうしませんもうしませんもう二度としないです本当にしないですからぁ!うぇーんうぇーん、しくしくしく」

「ええええぇぇぇっ⁉︎ 偽兄様がおかしくなったっ⁉︎ っていうか世間一般からすると喜んで人殺しとかする方がおかしいけど殺人鬼的にコレは一体どういう事?まさか今までが演技でドッキリカメラ?的な?ううん、確かに目の前ですぅちゃんを刺し殺したしもあちゃんとMIKIKO先生だって・・・」
 さっきまで凶々しいまでのドス黒いオーラを発していた偽兄さんが今ではまるで憑き物が取れたように人畜無害な雰囲気を醸し出しているばかりか額を床に擦り付けて一途に謝りまくっています。由結が理解の追いつかない想定外の出来事に戸惑っている時です、突然入口のドアが吹き飛んで誰かが突入してきました。
「ゆいちゃん大丈夫っ⁉︎」
「もあちゃんっ!!」
「YUIMETAL、無事かっ⁉︎」
「ああ、MIKIKO先生までっ!!ゆいの事より二人が生きててくれて本当に、本当に良かった!」「YUIMETAL、細かい事は後で説明する!それよりまずは殺人鬼マカブラことKOBAMETAL!さっきはよくも私と最愛を殺してくれたなっ!宣言通り生まれ変わって真っ先にテメーの事を殺りに来たぜっ!覚悟しなっ!・・・・ってなんでコイツ土下座とかしちゃってんの⁉︎」
「・・すみませんすみません本当にすみませんさっきはいきなり殺しちゃってすみませんごめんなさい超ごめんなさいマジ申し訳ございません・・」
「よく分からないんですけどさっきまで偽兄様はいきなりすぅちゃん刺したりあまつさえお二人の殺害動画を見せびらかしたり、ゆいがどうやらお姫様ですごい能力があるらしい事を説明したり、そしてゆいを死なない魔法の為の道具として使うように拉致監禁して連れ去ろうとしてたりしたダークサイドな殺人鬼だったんだけどたった今急に人格とか雰囲気?が変わったように謝りだしたんです!」

「そうそう、急に別人になってビックリしたよー」SU-METALもむっくり起き出して同意しました。
「すぅちゃん気付いてたんだ⁉︎」
「ゆいちゃんパンチは結構強烈だったけどMIKIKOの体罰よりは軽かったから全然平気だYO!それよりちょっと状況を把握する為に気を失ったふりをして様子を窺ってたのさ!」
「流石すぅちゃんマジ騎士姉様だわっ!授業中とは大違いよっ!」
「いかにも!授業中とは大違いなのさっ!マカブラのやつが背中向けた瞬間ぶっすりやり返してゆいちゃんを取り返そうと狙ってたのよ」
「すみませんすみませんごめんなさいごめんなさい先程はいきなり背中から刺し殺しちゃってすみませんあの超有名な皆んなのヒロインSU-METAL様を超卑怯な攻撃で斃してあまつさえブスブス刺して更に蹂躙してしまいましたごめんなさいごめんなさい」
「ちょ、超有名とか、み、皆んなのヒロインとかそんな事言ってすぅを褒めそやかして、ど、ど、どういう了見でふかっ⁉︎」「ちょっとすぅちゃん自分を殺した相手にキョドり過ぎよ」
「にゃんだと〜、ゆいちゃんだって・・」
「二人ともちょっと待ってくれ。すず香は1度殺されて生き返ったのだな?」
「いかにも!」
「その事はまた後で改めて聞くが早急に確かめなければならない事がある。YUIMETALよ、こいつがこんな風に変わった時の事を話してくれないか?」
「はい。たった今なんですけど、この移動系の魔法が使えなくなる首輪をかけられてお前に人間の尊厳はもう無いとか、もし逃げ出したら偽兄様と共に偽家族だった人達の命は無いとか脅されて引きずられているところでした」
「クズらしい汚ねぇやり方だな」
「すみませんすみません本当ごめんなさいクズですみません汚ないやり方してしまってマジ申し訳ありませんどうかこの通り・・」一語一句に反応して謝りまくる同志KことKOBAMETALは床に穴掘って更に頭を下げかねない様子です。

「それでYUIMETALはその時何かしなかったか?」
「ゆいは特には何も・・あ、せめてもの抵抗で笑ってみたりしたくらい・・かな?」
「そんな状況で笑った、だと?」
「はい、そんな状況だからこそゆいは人としての在り方を主張するべく笑ってみました」
「ほう、では特別な意志を込めて笑ったと言う事なんだな?」
「・・ええ、まあそんな感じ、かな?」そこまで聞いたMIKIKO先生と最愛は何故かチラッと目配せする様に頷きあいました。
「?」
 それを見た由結が何だろうと不思議そうに軽く首を傾けた時です。二人が急に由結の足元に片膝をつき、謂わゆる(臣下の礼)をビシッととりだしました。
「えええぇぇっ⁉︎な、なんですか二人ともっ⁉︎」
「由結姫様、決まり事とはいえ今までの無礼の数々、どうかお赦し下さい」そう言って深くこうべを垂れる二人に由結は面喰らってしまいました。
「そ、そんな⁉︎ゆいが王様の一味らしい事は偽兄様からさっき聞いたけど、なにもMIKIKO先生やもあちゃんまで急にへりくだらなくても・・」
「いいえ由結姫様、由結姫様はただの姫様ではなく正式に王の位を継承する権利を有する方だと判明しました故に」
「そうなんですかっ⁉︎いったいどうして⁉︎」
「網由津王家の主には一子相伝の秘匿された魔力が宿るのです」
「ああっ、それ長老様って方が言ってたって偽兄様が言ってました!それって何なんですか?」由結は自分より下から目線で話すMIKIKO先生に戸惑いつつもそれが何なのか気になって先を促します。
「はい、それは・・・」
「それは?」ゴクッと唾を飲み込み緊張の面持ちでMIKIKO先生の言葉を待つ由結への返事が「それはその笑顔です」と、あまりに抽象的で意外な返答に思わず脱力して聞き返してしまいました。
「は?先生、ファンタジックで素敵な事を言った風ですけど、この小一時間程で豊富な経験を積んだゆいにはそんなお子様騙しな説明は通じないんですよ」

「いえ、決して由結姫様をからかったり愚弄したりした訳では無いのです。その意志を込めた微笑みこそ太古の昔からこの世界や日本を救ってきた網由津王家の真の力なのです」
「意志を込めた微笑み?」
「はい、我々の間では『王、もしくは王女の微笑み』とか『ロイヤルスマイル』とか呼ばれている秘密の魔法です」
「あの、具体的に言うとどういうものなんですか?」
「はい、由結姫様。その笑顔を見た者は普通及びそれより良い人は特に何も変わりません」
「変わらないのかよっ!」珍しく由結は突っ込みを入れてしまいました。
「ですが、普通より悪い人間、それも悪ければ悪い程その笑顔を見た者は人格が矯正されて良い人になっちゃいます」
「えー、そんなチートな魔法にわかには信じられないですけど⁉︎第一『普通の人』っていう基準が曖昧だし・・」
「それはその方の御心次第です。殺人とか窃盗とか姦淫とかは言わずもがな、ジャンケンの後出しとか既読スルーとか物販列の順番抜かしとかチケットの転売とかそんなの全然悪くないよ普通だよ、っていう邪悪な御方ならばそれは随分許容範囲が広くなってしまいますが、」
「ちょっと何言ってるのか分からないです」
「ですが我等が由結姫様は素直で正直で優しい心根をお持ちのお方です。そして一般的な善悪の判断基準を備えてらっしゃいます。本当によくここまで清く正しく育ってくれました、わたくしめもお腹を痛めて産んだ甲斐があります」
「おい、あんた何しれっと女王の母に成りすまそうとしてんのよ」
「てへっ」
「わあ、一瞬ビックリしました・・今日はゆいの知らなかった事がいっぱい起こるからもしかしたら?って思っちゃいました」
「ないないない、こいつが由結姫様の母上?ないないない!ってか現王妃様って事だよね?ないないない!」
「最愛よ、そんなに全力で否定しなくても・・」
「ちょっとあんた身の程を知りなさいよね!まったくもう・・」

「いやまあとりあえずですね、『ロイヤルスマイル』は一見地味なんですけど完璧なジャッジメントが働いてどんなに周りにバレないように上手く取り繕っている偽善者や悪人も漏れなく善人に変えてしまう正義の魔法なんですよ」
「実感が湧きません」
「そう、遠くは邪馬台国の卑弥呼様が瞬間的に大陸に移動なさって漢の国の侵攻を思いとどまらせたなんて事もありましたね・・」
「ええっ⁉︎いきなりビッグネームがご先祖様っ⁉︎」
「思えばあれが我が国が最初に受けた外国からの脅威でしたね・・」
「さらっと今凄い事聞いちゃったような」
「あと江戸の五代将軍綱吉様を命を大事にする優しい将軍様に・・」
「ああっ、教科書で読んだような犬的エピソードがっ!」
「思えばあの法令のおかげで我が日本は他者の命を尊重する優しい国民性が根付いたと言っても過言ではありません」
「そうなんですか⁉︎」
「それとめた太郎の女癖を治したり・・」
「それは誰なんでしょう?」
「ゴンザレスの奴の浪費癖を治したり・・」
「まさかの異人さんまでっ⁉︎っていうか段々ショボいエピソードに・・」
「仕方がありません。各時代様々な紛争や揉め事を治めてきた網由津家ではありますが、絶対秘匿の魔法故に王から次世代の王への伝承や我等ガーディアンの報告書に記録されるだけで表には出る事は無いのです」
「随分秘密にこだわるのですね?」
「はい由結姫様、その効果は絶大な魔法なのですがタネがバレてしまったら誰にもかかりません。その笑顔を見なければいいしそれが網由津家の王だと分かれば封じ方など簡単ですので絶対に他者にはこの魔法の存在を知られてはならないのです」
「ああ、なるほど」
「歴代の王、王女様達は皆さん美男美女でらして、紛争の元の人物の所へ瞬間移動して赴き、その麗しい笑顔を注目させておいてそそくさと帰ってくる、そしてなるべく普段は引き篭もって外部の者に知られない、っていうのが基本的なスタイルです」

「そうなんですか?なんか凄いんだかセコイんだか・・」
「由結姫様のその麗しい御顔立ち、正しく王家の姫様の御尊顔ですよ」
「え?そうかなぁ・・」
「それに歴代の王の中でも能力が解放される16のお誕生日早々にこの魔法を発動させた御方は歴代誰もおられません、由結姫様が初めてです。わたくしめも幼き頃より乳を飲ませて御育てした甲斐があったというものです」
「えっ?そうなんですか⁉︎」
「ないないない、あんた何しれっと乳母ポジションアピールしてるの?由結姫様信じちゃダメですよ」
「ちっ、最愛年寄りめっ!いちいち文句つけよって」
「それより此処に生き証人がいるのでコイツにどんな具合か聞いてみれば?」
「それもそうですね、流石もあちゃんです」
「おい、同志Kよ、人格矯正された感想はどうだ?」最愛が床に這いつくばって未だバッタのようにヘコヘコしている偽兄さんこと同志Kに聞いてみました。
「もうアタシったらホント姫ちゃんの笑ったお顔見た瞬間心がひっくり返る?的な?っていうか今まで知らなかった感情が芽生えた様な?不思議な気分になっちゃってぇ、だからアタシもなんか怖くなっちゃって抵抗してみたのよぉ、でもなんかすっごい力でねじ伏せられる的な?その抗い難い流れに身を委ねてみるとこれがまたマッチョな太い腕に抱かれた様な心地良さが・・」
「ちょっと何言ってるのか分からないです」
「でねぇ、その後にアタシが今までやってきた悪事の数々が浮かんできてああこれが罪の意識ってやつ?罪悪感?ってやつなの?もう生きていけない程恥ずかしさと反省心?が溢れてきたのよぉ」
「あ、あの残酷で冷酷だった偽兄様がこんなに変わってしまったっ!しかも性別までっ!」

「お見事です、由結姫様。しかしながら性別までも変えてしまうとはいやはやなんとも凄いお力です!これは多分前例の無い事例かと思われますので報告書に追記しなければ・・」
「ふう、アタシったらお兄様喋りに疲れちゃったから普段の喋り方に戻してみました」
「こっちがデフォかいっ!」偽兄さんは案の定オネエでした。
「まあいいわ。ときにすず香よ、お前よく生きてたなぁ」
「なんか、ラッキーな事にすぅにもゆいちゃんの死なない不死身の魔法?が効いてたみたいだよ」
「そうそう、すぅちゃんが刺される前にたまたま、それはもう本当に偶然たまたまなんだけどゆいの事ぺろぺろしたのが良かったんじゃないか、って」
「ん?・・失礼ながら由結姫様、そんな訳無いかと存じます」
「有り得ませんね」MIKIKO先生と最愛は否定しました。
「えっ⁉︎何でですか?」
「はい、由結姫様。流石にこの不死身の体質は一朝一夕で培われるものではありません。ペロッとひと舐めすればオーケーなんて簡単なものではないのです。常に一緒にいるという絆が必要な魔法なんです。まずは最低10日位は続けないと不死身体質にはなれません、それからです」
「えっ⁉︎じゃあすぅちゃんはどうして・・」
「へ?まあそれは毎晩ゆいちゃんが寝ちゃってからベットに入り込んで寝汗をぺろぺろしたり涎をじゅるじゅるしたりツルッとしたワキを・・」
「お前ガチだな」
「ガチね」
「ヤダわぁスーメタちゃんたら最低ーっ。元殺人鬼の分際でアタシが言うのもなんだけど姫ちゃんこれは怒っていいところよぉ」
「なんだよぉ、じゃあMIKIKOやもあちゃんはどうやってゆいちゃん分補給してるんだよ?」
「え?決まってるだろ、寝汗をぺろぺろ涎をじゅるじゅるだ!」
「同じく!」
「おいこらっ!あんた達もすぅと一緒じゃないか!」
「ちょっとやーねぇ、元殺人鬼でオネエのアタシが言うのもなんだけど姫ちゃんこれも怒っていいところよぉ〜」

「いやいや我々はガチな変態すず香と違ってガーディアンとしての必要上、それも由結姫様に気付かれてはならないので致し方なく由結姫様が就寝してから・・」
「みんなヒドイですっ!」
「す、すみません!由結姫様っ!」
「いくらゆいが寝ちゃったら何されても例えぐるぐる回されても起きないからって・・」
「も、申し訳ございませんっ!」MIKIKO先生は土下座しました。
「ほら、お前も謝れ!」MIKIKO先生は最愛の後頭部を掴んで床に押し付けました。
「やーい、2人とも怒られてやんの」
「お前もだ変態すず香!」
「ちぇっ」3人は由結に頭を下げました。
「もう!みんなのいけずっ!ぺろぺろとかじゅるじゅるとかそんな素敵な事はゆいが起きてるうちにして下さいっ!」
「ちょっ、姫ちゃんそっち⁉︎」
「な、なんなら今すぐでも、い、いいんだよ?・・じゅる」
「元殺人鬼でオネエのアタシが言うのもなんだけど姫ちゃんあなたも相当ザンネンだわ」
「おおっ、なんと由結姫様は慈悲深い!では早速姫様分を補給させて頂こう」
「そうね、今日はまだ補給してなかったしいっぺん殺されたりしたから今すぐ頂こう」MIKIKO先生と最愛は由結の左右からぺろぺろ始めました。
「ぺろぺろ」
「うひゃー」
「ぺろぺろ」
「くすぐったいー」
「おや?いつも無味無臭な由結姫様がほんのりしょっぱいゾ、ぺろぺろ」
「いやあー」
「色々怖い目に遭ったからストレスで塩分濃度が高い汗をおかきになったのね、お可哀想に・・ぺろぺろ」
「うひょー」
「はむはむ」
「あーれー、くすぐっ・・・」
「ちょっと姫ちゃん、今なんで黙った?」
「み、MIKIKO先生の甘噛みがハンパなくて・・」
「ふふ由結姫様、大人を舐めてもらっちゃあいけませんぜ!見よ、この女子力を!ぺろぺろ」
「ひゃあ、どちらかというと舐められてます!」
「ちょっとミキちゃん、元殺人鬼のアタシが言うのもなんだけどそれは女子力関係無いわ」

「いいなぁ、楽しそうだなぁ、すぅも仲間に入れてよぉ」
「お前は目的が違うからダメ」
「えー?すぅだって一度殺されてるのにぃ」
「それについてはごめんなさい超ごめんなさいアタシが悪かったのスーメタちゃん許して」またへこへこ謝りだすオネエのKはそれはそれでうざいのでスルーです。
「まあいい、すず香が死なずに済んだのは本当に良かった。お前が寝てる娘を舐め回すような見下げた人間だったおかげで事なきを得た」
「え?だって女同士愛し合うのは美しく、尊く、そして当たり前の事じゃあないのか⁉︎」
「すぅちゃん・・・」何故か由結が感激してこくこく頷いてます。
「ともかく、我々もすず香という大事な仲間を失わなくて何よりだ。由結姫様を気に入るようにわざわざ妹モノのギャルゲーを作ってプレイさせていた甲斐があるというものだな」
「えっ?あの『ゆりいも』っていうゲームはオリジナルだったのか⁉︎」
「わははは、驚いたかっ!その為だけにわざわざ法外なギャラを払って有名な絵師さんにキャラデザをお願いしたりしたのだ!攻略対象の妹達の8割がた由結姫様に似せてなっ!」
「あんたグループの予算を何に使ってんのよ⁉︎」呆れて最愛が突っ込みます。
「安心してくれたまえ。最愛、お前もすず香にかまって貰えるように残りの3割の妹達はお前に似せてデザインして貰ったさ」
「余計なお世話ですっ!あともあの分は2割だし」
「ああ、道理で2人に最初会った時、初めてな気がしなかった訳ね!」
「そうとも、君達は出会う前から運命が決まっていたのさ」
「素敵・・・」胸の前で手を合わせて夢見る表情でウルウルしながら由結とSU-METALが呟きます。
「んな大袈裟な」思わず最愛はプッと鼻で笑ってしまいました。
「・・そう言えばもあちゃんは仕事だから・・組織の命令だからゆいの側にいたの?・・私達が出会ったのは偶然ではなくてそういう決まりだったからなの・・?」

「まあそうって言えばそうではあるけど・・」
「偽兄様が言ってたけどやっぱそうなんだ・・」
「確かにもあは代々王家を護る家に生まれて由結様とお誕生日も近いしお友達兼最も身近な『盾』として送り込まれたのは事実だわ」
「"由結様"だって、ヨソヨソしい・・2人いつも一緒で双子の様に育って・・一番の親友と思っていたのはゆいだけだったんだね・・」
「それは仕方のない事なのです、由結姫様。最愛や私、それと貴方では立場が違うのです。身分を伏せていた頃と同じようにはまいりません・・」MIKIKO先生は思わず口を挟んでしまいました。
「MIKIKO先生まで・・由結姫様とかなんとかさっきから・・クールでカッコイイお姉様だったのにガラッと変わっちゃって・・」
「いや、そ、それは・・」
「そうよね、もう以前のようには戻れないんだね・・ゆいが好きだった日常には・・」
「元殺人鬼で貴方を拉致監禁しようとしてたアタシが言うのもなんだけど姫ちゃんは特別な生まれだからしょうがないと思うわぁ」
「っていうか大体においてっ!偽兄様、貴方が一番変わり過ぎですっ!」
 Kは訳知り顏のオネエキャラなりにフォローを入れたつもりが余計に由結を刺激してしまいました。
「優しい兄様だったのに実は凶悪な殺人鬼、かと思えば180°変身して善人に、そしてなんだかよくわからないけど最終的にオカマにまでキャラ変しちゃって!」
「め、面目無いっす・・」
「今まで家族だと思っていた人達は偽者で挙げ句の果てはゆいがお姫様ですって⁉︎チャンチャラ可笑しいわっ!ヘソで茶を摘むわっ!(意味不明)もう何を信じていいかわからないっ!」
 緊張が解けたのと色々な事が起こり過ぎたのとで感情がミルフィーユになってしまい珍しく由結はヒステリー状態に昂ぶってしまいました。
「死ななくなる魔力ってなんなの⁉︎そんな厄介なチカラ要らないもん!どうせゆい自体は死んじゃうし」

「貴方が死んだら我々も生命維持出来なくなって死にます」
 MIKIKO先生が淡々と言いました。
「ああそう言えばそんな事になっているみたいですね。自分達が死ぬのは困るからゆいの事はとりあえず生かしておくと・・」
「ちょっと!何その言い草っ!まるで自分達が長生きしたいからアンタを護るみたいな!」
「コラ!最愛、口が過ぎるぞ!」MIKIKO先生がキレた最愛をたしなめましたが由結も売り言葉に買い言葉でつい余計な一言を言ってしまいました。
「はいはい、ゆいは顔笑って長生きするからせいぜいもあちゃんも長生きしてね」
「ゆいちゃんのバカっ!」バシッ!
「ぎゃ!」バタン!最愛の強烈なビンタに由結は床に転がってしまいました。
「おい最愛っ!お前姫様に対して何て事してくれるんだっ⁉︎」
「うるさいっ!ちょっとアンタは黙ってて!」
「あぅ・・」MIKIKO先生も最愛の強い態度に口を閉ざしざるを得ませんでした。そして最愛は床にほっぺに手を当てて横座りになっている由結に話しだしました。
「いい?アンタや私、小娘の1人や2人死のうが居なくなろうが普通なら世の中には何ら関係無いけどゆいちゃん、アンタにはこの国の、いや世界の未来を救えるかもしれない力があるのよ!歴代王から王へ受け継がれてきた力、それを未来に残す為に子孫へと受け渡していかないといけない義務があります。我々ガーディアンも同じくこの力を絶えさせない為に代々身を挺して王家を護ってきました」
「・・・」
「でもね、そんな歴史的背景なんかもあには関係無いの。ゆいちゃんが好きだから護るの。ゆいちゃんが大事だから、死んで欲しくないから例えこの身が滅んでも何度でも立ち上がって護り続けるの!」
「もあちゃん・・・」
「いい?私達ガーディアンは生き返るってだけで死なない訳では無いの」

「もあはもう何度か死を味わっている。例えばスズメバチに刺された時」
「うわぁあの時か!ごめんなさいマジごめんなさい」SU-METALは土下座して謝りました。
「刺された瞬間神経を逆なでされるようなショックが走って呼吸も麻痺してやがて死んだわ」
「いやあー」その苦しさを想像して由結は叫んでしまいました。
「例えばさっき、こいつにブスブス刺された時」
「その節はマジごめんなさい超ごめんなさいほんとごめんなさい」
 偽兄さんことKはまたまた土下座しまくりました。
「刃物が何度も身体を突き抜けていく痛さ、気持ち悪さ、血が大量に噴き出してもう二度とゴメンだわ」
「ぎゃあー」その凄惨な場面を想像して由結は叫んでしまいました。
「それと飛んでるゆいちゃんから、相当高い所からゆいちゃんから、かなりな勢いでゆいちゃんから落とされた時」
「ひぃーゴメンなさい」由結も土下座して謝りました。
「・・ゆいちゃんって三回も言ったわね」
「・・あれは相当根に持ってるわね」KとSU-METALはボソボソ会話しました。
「何も出来ずあっと言う間に地面が近づいてくる恐怖、そして叩きつけられた瞬間五体がバラバラになって骨が砕け内臓は潰れ・・」
「もうやめて〜〜」由結は頭を抱えて泣き叫びました。
「やがて生き返るとはいえ死ぬ時は痛みと苦しさに悶絶しながら死ぬんだよ。そんなのはね、仕事や義務だったら耐えられないわ!ムリ!二度とゴメンよ!でもね、ゆいちゃんの為なら、ゆいちゃんを護る為ならば何度でも耐えてみせる!それが例えゆいちゃん自身に上空から落とされて、地面に叩きつけられて、五体バラバラで死んでもねっ!」
「・・言い方にトゲがあるわね」
「・・あれは相当根に持ってるわね」KとSU-METALはボソボソ会話しました。
「ごめんなさいもあちゃんごめんなさいそんなことまで考えもせず生意気な事言っちゃって・・」

「あの時ゆいちゃんに落っことされた河原で歌った『FRIENDS』は覚えてる?ライバルで親友で・・それはもあの偽らざる気持ちで今でも、これからも変わらないよ。そしてもあはあの時言ったわよね、ゆいちゃんの側にずっといるって。そしてゆいちゃんより先に死んだりして寂しい想いはさせないって」
「・・もあちゃん・・」
「やがていつかゆいちゃんが天命を全うしてこの世を去った後、私達はその死を充分弔って我が主ゆいちゃんの想い出に浸りながら数日後に後を追うように静かに人生の幕を閉じるの。そうなる事がもあの運命でありそして喜びでもあるの」
「もあちゃん、わーん」由結は最愛に抱きついてわんわん号泣しました。最愛もそんな由結の頭を撫でながら優しくまつ毛を濡らしました。
「おーいおいおい、なんてステキなんでしょう!女の友情って!」Kがおいおいと貰い泣きしました。
「オマエが泣くんかい!」イイ感じの雰囲気を持ってかれた最愛はとりあえずツッコんでおきました。
「まあ何はともあれ我々は死ぬも生きるも一蓮托生の運命共同体です。由結姫様においては将来お世継ぎも産まなければならないしそういった人生の岐路は其々迎えはしますが三日と離れず暮らしていく大切な家族です。これからもよろしくお願いします」MIKIKO先生は深く頭を下げました。
「ゆいにはまだ分からない事だらけだけどこの4人なら乗り越えていけるし怖い事なんて何もないと思う。ゆいがいずれ継がなくてはならないという王様の位、なんとか受け入れようかと思います」
 由結がそう決心を表明した時です、クルックーと鳩の鳴き声がしました。窓の外を覗くと豪奢な手摺の天端に一羽の鳩がとまっていました。

「あっ、あの時の鳩さんだ!」
「えっ?もあがゆいちゃんに落っことされて五体バラバラになっていっぺん死んだ日に絡んできたあの鳩?まさか別の鳩でしょ?」
「ううん、足に着いてる輪っかの模様が同じだもん」するとMIKIKO先生が答えました。
「なんだ最愛は知らないのか?あの模様は我等が王の紋章であの鳩は王の使い魔のハトキュウさんだゾ」
「へ?あのオヤジ使い魔なんて持ってたの?」
「コラ最愛よ口が過ぎるゾ。普段目の前に現れる事は余程な事がない限り滅多にないけど由結姫様や御兄弟の王子様方をそれぞれ見守る為に一羽ずつお付きになっておられるのだ。此方は由結姫様担当のハトキュウさんだ。ハトキュウさんを通して我等が王は由結姫様の成長を見守っていたのさ」
「ええっ⁉︎そうなの?」最愛が驚いているとハトキュウさんが鳴き出しました。
「クルックー由結よ、そなたの決意しかと見届けたぞ!」
「あっ、喋った!」そしてハトキュウさんはバサバサ飛んでいってしまいました。
「王様ってことはゆいのお父様・・」
「ああチクショウ、王様の奴鳩で様子見てたくせに毎日もあに連絡させやがったのか〜」
「まあそう言うな、我等が王も若い娘とお話がしたかっただけだと思うゾ」
「ゆいのお父様はどんな人なんだろう?・・」
「チクショウ王様の奴〜!あのオヤジに今日はどんな下着なのかとかバストサイズは上がったかとか毎日言わされてたのに!」
「まあまあ最愛よ、英雄色を好むとか・・な?」
「・・ゆいのお父様・・」
「くそぉあのエロリ野郎!」
「まあ確かに我等が王は特殊な趣味と言うか、私も20歳を越えたら急に口も聞いてくれなくなったりもしたが」
「お、お父様・・」
「あ、すみません由結姫様何か仰ってましたか?」
「あ、なんだかもういいです・・」
「ゆいちゃんドンマイ!王様あるあるだよ!」SU-METALのズレた慰めが虚しく響きました。

「そうそう、そろそろお腹が減ってこないか?長老と使用人達を急いで解放して改めて由結姫様の聖誕祭を仕切り直そうではないか!」
「賛成!すぅもお腹がペコちゃんなのだ」
「アタシもぺこぺこよぉー」
「おい、ちょっと待て!マカブラことKよ!おまえさっきからやたら馴れ馴れしく『元殺人鬼』とか"元"をアピールして絡んでくるけど、いくら人格が変わったとは言え世間様にはそんな事は通用しないからな!おまえなんか即刻死刑だからな!」
「ヒィ、よくわかってます〜」
「ホントよ全く!いい?ここにはツッコミキャラはもあだけで充分なの!」
「えっ?もあちゃんそこに対抗意識?」
「すみませんすみませんアタシなんてこの場で処刑されても文句もありません」
「ふん、そうしてやりたいけどインターポールの魔法犯罪科が来るまではおまえが由結姫様に付けた逃亡防止の首輪をおまえ自身が巻いて大人しくしてるんだな」
「はい、すみません・・」

 Kの処遇が決まった後、由結はこう切り出しました。
「王の後継者第一皇女由結としてみんなに2つ程命令があります」
「なんなりと」MIKIKO先生と最愛とSU-METALは服従の意を示しました。
「1つ目はゆいと今まで通りに接すること!」
「はい、由結姫様!そうさせて頂きます!」
「・・大丈夫なのかなぁ?いきなり姫様言ってますけど?」
「任せておいて下さい由結姫様!」
「・・まいっか・・そして2つ目は・・・」


(12) BABYMETAL

「そして2つ目は・・」そこで言葉を切ると由結は3人を見回してこう言いました。
「ゆいは王様の跡継ぎとして授かったこの『ロイヤルスマイル』?って能力をみんなの為に惜しまずたくさん使ってみたいです」
「はい?と言いますと?」MIKIKO先生は聞き返しました。「さっき聞いた感じだと歴代の王様達は何かその能力が必要な事態が起こった時以外はそれを使わずに引き篭もっていたという印象なんだけど・・」
「そうですね、この希少な能力を使える唯一の人類として命を落とすとかさらわれるとかいうリスクを考えればそれが妥当な選択かと・・」
「でもゆいはそれ以前に魔女っ子だしお客さんの前でパフォーマンスとかしたいのです。そして来てくれた人達に微笑みかけれたらいいな、って思うのです」
「それは危険だわ!不特定多数に不必要に姿を晒すとか・・」由結の意見に反対しようとした最愛をMIKIKO先生は制しました。
「最愛よ、それはとても由結姫様らしい真っ直ぐな想いではないか!」
「でもっ・・」
「それに今迄対個人として使われてきた『ロイヤルスマイル』が衆人環視の中で使われたら果たしてどうなるのか?知りたくはないか?」
「それはそうだけどゆいちゃんを危険に晒すんじゃないかな・・?」
「ところが案外そうでもないかもしれないゾ」
「え?なんで?」
「由結姫様は早々に能力を発揮しました故、お父様である我等が王はまだまだ現役バリバリであらせられます。しばらくは代替わりも無いと思われます」
「まあそうね・・それで?」
「正式に王の位を継承した場合、世界中の他の王族に代替わりを報告してお披露目をしなければならない決まりなのだけれども、良からぬ陰謀が企てられたり命を狙われるようになるのは大体この時からが多いのですよ」

「なんかそれは聞いた事あるわ」
「現王との代替わりまでだいぶ期間があると思われるからそれまでは比較的危険は少ないんじゃないかと思うな。まあ16才になったので近々に開催される各王族が集まるパーティなどに参加しなければならなくなりますが、大体において各王族以外で我々の存在を知る者は殆ど記憶を操作されてる筈だし一番危険な存在だったKの奴はこれこの通りだし・・」
「まあそう言えばそうですね」最愛も態度を軟化しました。
「それ以前に何の為の我々ガーディアンだ?すず香が加わった今、我々は世界のどの王族よりも最強のガーディアンだ!由結姫様をお護りするのに死角はない!」
「皆さん頼もしいです!」由結も両手を前で組んで夢見る表情です。
「何より皆さんが死なないのが嬉しいです」
「いや、実際には死んじゃう場合もあるよ」
「えっ⁉︎もあちゃんそうなの⁉︎」
「高い所から落とされてグッシャリしてもブスブス刺されて血がびゃあびゃあ出ても蜂にチクチク刺されたりしても死なないけど・・」(※最愛は相当根に持ってます)
「火で焼かれたり薬で溶かされたりして身体の大部分が消失したりしたら再生は無理かな」
「いやあぁぁーっ、やっぱり死んじゃうの⁉︎」
「そうね、何かの拍子にガーディアン同士の戦闘になったら火と薬品の闘いになるわね」
「やめてーっ!これからはもう硫酸的なものとか持ち歩かないで!花火も禁止よっ!」
「いや、普通に硫酸なんか持ってないし。一般の人でも花火ごときでなかなか死なないし」
「ふふふ由結姫様、心配は御無用ですよ。私とすず香は火の属性、炎なんか友達以上恋人未満ですよ!(意味不明)焼く事は有っても焼かれるなんてまず無いし、それに薬品も液状や霧状なら水属性の最愛がいれば身体に一切触る事は無いでしょう。そういった意味で我々のチームは死角がないのです」
「そうだったのですか・・ちょっと安心しました」

「ところで由結姫様、パフォーマンスと言えばどのような形態がお望みですか?やはり学院での活動を引き継いだアイドル的なステージでしょうか?」
「はい、それが一番やってみたい事ではあるのですが、ゆいの思い込みかもしれないけど前人格の偽兄様やその仲間の人達の事を思うと“へびーめたる”を嗜んでいる人は兇悪そうな人が多い気がするのです・・だからまずそのジャンルをやってみようかなって思うのです」
「なんとヘビメタですか⁉︎」
「はい。あまりよくは分からないけど同じ音楽には違いないから歌って踊ることは出来るんじゃないかな?って思います。それにすぅちゃんの素敵な歌声はああいう激しい音楽にも負けない力強さと張りがあると思います。よく歌っている持ち歌もアレンジ次第でへびーめたるっぽくなりそうですし・・・だからすぅちゃんに真ん中で歌ってもらってもあちゃんとゆいは両隣でコーラスしながら踊るのです。やるジャンルはともかく、すぅちゃんがセンターでもあちゃんとゆいが左右という形で何かやりたいなというのは以前から思っていたのです」
「まあすず香の歌は別格ですし由結姫様と最愛の双子の様な容姿が左右を固めるのはビジュアル的にも正解だと思います。ただ我々には素養が無いヘビメタというジャンルがネックですかね・・」
「・・アタシなら出来るかもしれない・・」
 しばし訪れた静寂を同志KことKOBAMETALが破りました。
「いや、むしろアタシにしか出来ない仕事かもしれない!っていうかアタシの所為で姫ちゃんがヘビーメタルにマイナスイメージを持ってしまったならアタシがそれを払拭しなければいけない。そしてアタシなら姫ちゃん達を前代未聞のメタルアイドルとして世に出す事が出来る!」

 4人がKに注目する中、彼は噛みしめるように話を続けました。
「アタシが音楽の見識を深める為に海外を周遊していたっていうのはあながち嘘ではないのです。時間と資金を持ってくれたグループへの建前もあるし、一応最終的にはそれで身を立てようとは思っていたので・・まあそれで色んな国のメタルシーンの見聞を広めたり人脈を持ったりして・・・ただその途中でカープス達と知り合って道を外してしまったけど・・・。あの日、スーメタちゃん達がミサにガサ入れに来た時・・あれは本当は我々が仕掛けた罠だったのよ」
「えっ、そうなの⁉︎」
「わざとミサの情報をリークして当局を踏み込ませたところを一網打尽に殲滅して我々の力をアピールするっていう作戦だったの・・細長い通路1つしか出入り口の無い洞窟のような広間で何も気付かずミサに興じているフリをして治安部隊が踏み込んできたら外部に配置した部隊と挟み討ちにする手筈だったのよ。そしてアタシは暗く細長い通路の途中の窪みに隠れておそらく最も攻撃力が強いであろう相手の先頭グループを・・つまり噂に聞くスーメタちゃん、貴女を陰から音も無くプスッと刺す筈だったの、さっきみたいに・・その筈だったんだけど・・・ 」
 ここで言い淀んだKは更に複雑な表情を浮かべてSU-METALに向き直って話を続けました。
「何のてらいも無く普通に歩いてきた貴女は騎士モードに変身して歌い出したんだけどその歌声にアタシは衝撃を受けて固まってしまったの!そこはデスメタルの轟音と興奮した仲間の喧騒でとても普通には会話が出来ない程うるさい空間だったんだけど、そんな状況などお構いなしにスーメタちゃんの生歌は別次元から直接脳髄に届けられるように響き渡ったの。そしてその瞬間アタシは耳を奪われてしまってマカブラである事を一瞬忘れてしまったのです・・」

「アタシがただの音楽好きに成り下がってその奇蹟の歌声に心奪われていた何秒かの間に貴女はアタシの前を通り過ぎてしまったわ。そればかりかその後しばらく魔法も使えなくなってしまって追い討ちもかけれなくて・・アタシが貴女を討ち取ったら合図を出して、それでカープス達ホール内のメンバーと外に待機しているメンバーが一斉に武器を取って一気に挟み討ちする段取りになっていたのにアタシがしくじってしまった為にカープス達も虚を突かれて貴女と捜査員達に逆に制圧されてしまったのよ・・にもかかわらずアタシには不死身人間になるという譲れない野望があったからカープスや他の仲間達を見捨ててどさくさに紛れてコソコソ逃げ出してしまった・・何が起きてるか分からなくて狼狽していた外の連中には作戦が失敗したから散り散りになって逃げるようにだけ伝えて・・」
「そ、そ、そんな風にすぅを持ち上げて、ど、ど、どういう了見でふかっ⁉︎」
「あー、お前の事でもあるがとりあえず黙っとけな」
 シリアスな場面なのでMIKIKO先生は間の悪いSU-METALを黙らせました。
「その後逃げ延びたアタシはカープスや仲間を失った事を貴女の所為にする事によって罪悪感からのがれて貴女に復讐する事を第二の目標にして生きてきたわ。さっき、前人格のアタシは労せず貴女に仕返しする事が出来て有頂天になった、アタシに人生初のトラウマを植え付けた者への復讐に・・が、しかし今となっては貴女が死ななかった事を嬉しく思っている。あの歌声が失われなかった事を・・」
「そ、そんなに褒めそやかしてもな、何も出ないですからねっ!ひゃ、100ユーロくらいしか・・」
「すぅちゃんそれ結構出してるよ」
「・・とにかく、命を惜しむ訳ではないけれど・・あと1年、いいえ半年アタシに時間が貰えれば今迄培った知識、人脈、アイディアで姫ちゃん達を望むような活動が出来るようにもっていけるのに・・」

 首を垂れて黙り込むKを一同が見つめるなか、MIKIKO先生はふいっと外に出て行ったかと思うとちょっとしたら帰って来て喋りだしました。
「皆んなも知っての通り魔法を使った犯罪は普通の裁判には当てはまらない。普通はそうそう無い事だし、凶悪事件を起こせる事が世間に知れてしまうと魔女狩りが始まっちゃうからな。で、同志Kよ。お前は即刻死刑でこの件は闇に葬られる事が決定した」
「・・ええ、まあそうでしょうね・・慎んでお受けします・・」
 自分達や周りの人達を危険な目にあわせた者が処罰を受けるのは当然だと思いつつも人格改変後のイイ味したキャラを思えば少し心苦しいと感じた一同に向けてMIKIKO先生は続けて言いました。
「だが今回は由結姫様の初めてのロイヤルスマイルの対象者ゆえその効果の経過を観察しなければならない。なので刑の執行には猶予がつく。お前が前人格に戻ったりおかしな様子が見られたりするまではな」
「えっ⁉︎と言う事はアタシは今のままなら生きていてもいいって事なの?」
「そういうことだ」
「・・本当に⁉︎」
「勿論お前に行動の自由は無い。生きているだけでも幸せ、っていうくらいのポジションだ」
「はい」
「いいか、お前が今迄殺めた人達、事件に巻き込んだ仲間達の事は忘れるな!そして世の中を良くしていこうという姫様の志の下に忠誠を誓え!」
「はい」
「お前はさっき言ったな?自分なら我々の力になれると」
「はい」
「お前の持ってる才能、アイディア、知識、人脈、全てをもって我々をサポートしろ!」
「はい、命にかえてっ!」
「そして私は当然パフォーマンスを担当しよう。君達を世界に通じるユニットに鍛え上げてやる!だからそのつもりで覚悟しな!」
「「「はいっ!」」」
 3人は熱のこもった目でMIKIKO先生を見つめて頷きました。

「由結姫様、貴女は得意のダンスで観客を魅了して下さい!そしてその笑顔で世の中から悪を抹消するのです!」
「はいっ!」
「そしてすず香、お前はその歌で世界を獲れ!1人でも多くの人に我々の想いを伝えるのだ!」
「はいっ!」
「そして最愛よ、お前はその作り笑顔と小悪魔仕草で世の男どもを跪かせるのだっ!」
「はいっ!ってなんでもあだけそんな指令⁉︎」
「先生、皆さん、ありがとうございます。ゆいは音楽で世界を平和に出来る・・・と、までは思っていませんが、ゆいの授かった魔法やすぅちゃんの歌やもあちゃんの作り笑顔で観に来て下さった皆さんが1つになれればいいな、と思います」
「だから何でもあだけ腹黒設定っ⁉︎」
「皆んなのポテンシャルにアタシのプロデュースが加われば必ず上手くいくはず!このプロジェクトにアタシの第二の人生の全てを捧げます」
「よし、良い心構えだ。我々のこれからの活動方針が決まった!このプロジェクトは学院にも了承して課外活動として本気で取り組む事にするからな!さーて、これから忙しくなるゾっ!・・ってああそうだ、ちょっと報告しなきゃいけなかったんだ」
 MIKIKO先生はどこかに電話をかけました。
「あ、しもしもアベっち?えっ、会談中?めんごめんごっ!あのさー、例のマカブラの件なんだけどさー、チョイと生かしておく事になったからさー。そうそう、プランBね。って訳で以降そちらはノータッチって事でシクヨロね!じゃあねーまたねーバイビー!・・ピッとね。よし!じゃあ由結姫様の聖誕祭に移ろうか!盛り上がっていくぞ〜!」などとアゲアゲなMIKIKO先生に何処に電話したのかちょっと怖くて聞けない一同でした。

 長老やお手伝いさん達を解放するとようやくパーティーが始まりました。Kの奴は長老達が怖がるといけないのでその辺に閉じ込めておきました。

 一同はようやくありつけたご馳走に舌鼓を打ちながら長老による王家の説明を受けました。本来なら初めて聞く筈の由結でしたが、大方は偽兄さんのKから先程聞いた話だったので別段混乱はしませんでした。しかしながらもっと驚いてビックリする事を期待していた長老は肩透かしをくってガッカリしてしまいました。会食中、本物の父、母、兄、(弟は以前の由結と同様一般家庭に潜伏中)からの魔法使い的成人のお誕生日を祝う動画やプレゼントが届きました。長老によってブロックされていた幼少の頃の記憶が正常化されたのでなんとなくは思い出したけれど所詮物心つくかつかないかの頃の事です、由結はなんだか新鮮で不思議な気持ちになりました。家族が普通に暮らせないなんて王族って大変だな、って思いました。将来自分がお母さんになったら子供とはずっと一緒にいたいなぁ、とか色々考えているうちにお腹がいっぱいになったのもあって由結はSU-METALにもたれて寝てしまいました。
「クククなんて無防備な」
「お前いらん事するなよな」
「す、する訳ないし!もあちゃんじゃあるまいし」する気満々だったSU-METALはMIKIKO先生に釘を刺されてキョドりました。
「なんか言った?」あと最愛にも睨まれました。
「しかし姫様はこうして見ると16になったとはいえまだまだ幼いな」
「ゆいちゃんマジ赤ちゃんだからなぁ」
「赤ちゃんがやるメタルか・・BABYMETALとは洒落が効いてて面白いかもしれんな」
「うんうん、すぅはそもそもメタルクイーンって呼ばれてるしね」
「まあお前の場合メタル属性のクイーンって尊称だけどな」
「すぅは歌が好きなだけの、人と争ったり怒ったりしたことなんか無いような女の子だった・・そう、お部屋でネギを育てたり一円玉を集めたりして喜んでるような子だったのにここにきて色々変わったわ」
「なんか巻き込んでしまってすまなかったな・・」
「いえ、めっちゃ感謝してます」


(13)THE FOX GOD

 色々あった1日でしたがそろそろ門限が気になる時間になってきたのでくぅくぅ寝ている由結をなんとか起こして寮に戻る事にしました。SU-METALが出発する前にお花を摘みにちょいと離れたプライベートルームに寄って帰ってくる途中誰かに呼び止められました。
「由結とやらはおぬしの事かな?」
「えっ⁉︎違いますぅ」
「なぬっ⁉︎違うとな!見たところかなりな魔力の持ち主、相当な使い手とみた!てっきり王家の者かと・・」
「あ、あ、会うなりすぅを褒めそやかすなんてど、ど、どういう了見でふかっ⁉︎」
「すぅちゃんそんなところで何をキョドってるの?」
「あ、ゆいちゃん、なんかどうぶつが来たよ」
「えっ、なあに?あっ!ワンちゃんだっ!モフモフだっ!」
「違うわい!ワシをあんな人間に媚びて施しを受けて生きてるような卑しいどうぶつと一緒にするでない!ワシは悠久の時を生き続ける誇り高き霊験あらたかな御狐様じゃぞ!ってコラッ!撫で回すでない!やめんかコラッ!やめ・・・」
「おいどうぶつ、今なんで黙った?」
「ゆ、由結とやらの指技が案外絶妙で・・」
「すぅちゃん何してるの?」
「姫様どうかなされましたか?」最愛とMIKIKO先生も来ました。
「なるほどおぬし達は守護の者だな。ん?おおっ!年増の方、おぬしとは久しぶりじゃな」
「てめぇ襟巻きにすっぞ」MIKIKO先生は即キレました。
「ってかキツネに知り合いはいないゾ」
「おいおい、以前会っただろうが〜、ま、おぬしはまだゆりかごに入っておったがな」
「分かるかっ!何十年前の話だよ⁉︎」(※何げに墓穴掘った発言です)
「それよりおぬし達、こんなかわいいキツネさんが人語を解してお喋りしているのに何故そこはするーなのか?」
「え?だってさっきハト喋ってたし・・」
「そうそう、ハトさんがお喋りするなら哺乳類ならなおいっそう・・」
「ちっ、ハトキュウのやつだな!あやつ鳥類の分際で!いつか狩ってやる!」

「それはそうとキツネがゆいちゃんに何の用なの?」
「フフフ新たな王家の跡継ぎが誕生したと聞いてな、ここはひとつ使い魔になってやろうかとこのワシが自ら出向いてやったのじゃ!」
「えっ?ゆいの使い魔に?」
「うむ、そういう事だ」
「確かに王家は代々キツネ様を使い魔にする当主が結構いますね」
「そうそう、ないすふぉろーじゃ!年増の方」
「てめぇシッポ切ってキーホルダーにすっぞ」MIKIKO先生はまたブチ切れました。
「あいやおぬし達、そんなにワシを粗末にしてよいのか?ワシはおぬし達人間が歴史を刻む以前より生き続けておるでな。大いなる霊力を纏ってこの身は既に妖怪化・・あ、神に近い存在になったと言うかもうほとんど神なのだ!」
「おい!今妖怪って言いかけなかったか?」
「そ、そんな訳あるかいな、見ろ!シッポは九本も無いだろ?ハハハハハッ!」(※キツネ界隈ではテッパンのギャグらしい)
「キツネさんはどれ位長生きしてるの?」
「そうさなぁ、この前のいくさで、ってな会話で出てくるいくさが応仁の乱とかだったりするのだ」
「???」×4
「おや?ピンとこんかったかの?」
「そ、そんな事は無いゾ!ほら、えっとあの頃は私もまだ小さかったからな!」
「何言ってるの?MIKIKOは」「じゃ、じゃあ最愛は分かるのかよ!」
「ご、5、6千年前くらい?」
「もあちゃんも何言ってるの?そんな訳無いでしょ。ゼロが一つ違うわよ」
「お、すぅちゃんとやらは分かってるようじゃの」
「うん、5、6万年前でしょ?」・・・遠ざかってしまいました・・・
「おぬしらマジか?王家ヤバくね?」どうぶつに心配されてしまいました。
「そ、そんな事よりキツネの神様は何が出来るのさっ?」
「このワシに質問だと?ふん、いいだろう答えてやろう」神様なので上からです。
「例えば右に行くか左に行くか迷った場合、なんとなく正解の方を選んだりするのだ!」

「キツネさんすごーい!」
「さすが神様!」
「なるほどそれは凄いな!」由結とSU-METALとMIKIKO先生は感心しました。
「いやいやそれ2分の1だから!ジャンケンで勝つより確率高いし!」最愛は気づきました。
「あと未来の事が分かったり分からなかったり」
「どっちなんだよ⁉︎」
「いや分かるのじゃ、分かる分かるちょー分かる」
「なんか怪しいなぁ」
「そんな事言わず信じてくれよぉ最愛とやら。おうそうじゃ、すぅちゃんとやらおぬしに足の裏と頭の天辺に受難の未来が見えるぞ〜」
「ヒィーッ怖いよぉ〜キツネの神様ぁ、どうしましょう⁉︎」
「うむ、まずはワシを頼る事じゃ」
「ふん、脅しておいて救いの手を差し伸べる、怪しい宗教や占い詐欺の常套手段ね」
「最愛とやら、何でそんな事言うんだよぉ、ホントだってば信じてくれよぉ」
「ふん、こんな胡散臭い神様をゆいちゃんに付ける訳にはいかないわね」
「頼むよぉワシもそろそろ安定した生活がしたいんだよぉ」
「ふーん、人間にたかるとはキツネとはいえ所詮イヌ科のどうぶつね」
「違うんじゃそもそもワシは歴代王家に仕えていて以前は由結姫の父、現王の使い魔だったのじゃ!」
「キツネさん、お父様の使い魔だったの⁉︎」
「そうじゃ!そうだったんじゃがあの男、どうぶつの毛のあれるぎぃーがあるとかぬかしよってワシを邪険にしおったんじゃ!」
「まぁお父様、なんか今風な体質なんですね」
「しかしワシくらいになると人型の形態にも変幻出来るでな、たまもちゃんという可愛らしい童女なんじゃが、仕方ないからその姿になって控えておるとあの男、手のひらを返したようにすり寄ってきおってな。『お兄ちゃんと呼んで』とか『その姿のままキツネ耳と尻尾を出して』とかきもい事ぬかしよるから逃げてやったんじゃ!」「お、お父様・・」
「ゆいちゃんドンマイ!王様あるあるだよ!」※SU-METALのズレたフォローです。

「そしたらあの男、当てつけにハトなんぞ使い魔にしおったのじゃ!くっそぉ、よりによって鳥類なんぞを〜」
「鳥に何か恨みがあるのかしら?」
「あいつら上から見下すんじゃ!」
「いやいや鳥なんだから物理的にしょうがないし」
「あと、すかいつりーのソラカラちゃんもなっ!」
「知るかっ!」
「とにかく、今日もハトキュウの奴が『由結姫が16になって後継者になったYO』ってらいんしてきたからこっちに出向いたんじゃ」
「なんだ、実は仲良しじゃん。ってかキツネはともかくハトはどうやって文字打つんだろう??」
「そんな事よりどうかワシを使い魔にしておくんなまし、お願いしますだぁ!もう稲荷のお供え物を漁ったりするのは嫌なのじゃ!」キツネはぺこぺこしてお手などする始末、イヌ科のどうぶつなので下から目線です。
「え〜どうしよっかなぁ〜」優越感たっぷりに最愛が上から見下します。
「うちの寮どうぶつ禁止なんだよね〜」
「そんな事言わず〜お望みなら変幻しますからぁ」
「じゃあとりまそのたまもちゃん形態になってみてよ」
「お安い御用で」言うとキツネはくるりと回りました。一周するとそこにはおかっぱ色白、手毬でもして遊んでそうな着物をチャクった可愛らしい幼女がいました。
「あら可愛らしい!」
「やるわね」その変身技能と容姿に大絶賛です。
「たまもちゃん・・ハァハァ・・お姉ちゃんと遊ぼっか?」
「すぅちゃんとやらはあの男と同じ匂いがするのだが」
「ん?待てよ・・」MIKIKO先生はふと思い出しました。
「たまもって言う名前にその純和風なルックス・・お前ちょっと前にニセ札幼女事件で指名手配されてなかったか?」
「知らん、ワシはただ人間の銭で食べものやすまほを買っただけなのだ」
「その銭は何処で手に入れたんだ?」
「ワシは妖・・あ、神格化したお狐様じゃぞ、人間の銭くらい葉っぱの一枚でも有ればいくらでも作れちゃうのだ!」

「アウトだな」
「アウトですね」MIKIKO先生と最愛は口を揃えて言いました。
「何があうとなんじゃ!ワシはチョイと銭を作って人間流に生活必需品を手に入れただけなのだっ。あんな紙きれ作るのなんて妖・・あ、神様のワシにはチョロいのだっ!」
「お前日本の造幣技術ナメんなよ!シリアルナンバーみんな一緒でスカシも無い様なお札はすぐにバレるんだゾ!」
「おぬし達もあのいかつい制服を着たおまわりさん奉行みたいにワシをいぢめるのか?あいつらが追っかけ回すおかげでワシは人間流の生活が出来んようになっちゃったのだ」
「そいつは自業自得だな。人間の社会では勝手にお金を作ったりするのは重罪なんだ。犯罪をおかすようなどうぶつを由結姫様の側に置いておく訳にはいかないな。もう二度とやらないなら警察には黙っていてやるからとっとと去りな」
「く〜ん」・・「先生、ちょっと待って下さい!」と、そこで由結が口を挟みました。
「ゆいはキツネさんに使い魔になってもらいたいです」
「ちょっとゆいちゃんやめた方がいいよ、こんな怪しいどうぶつ」
「そうですぞ由結姫様!」
「でもね、あの有名な英国のホグワーツの生徒さん達でさえ使い魔はねずみさんとかかえるさんとかふくろうさん、せいぜいねこさんとかなのにおしゃべりも人間に変身も出来るキツネの神様が使い魔になってくれるなんて半人前のゆいには勿体無いくらいです」
「由結・・姫・・様・・・」キツネは(幼女形態)うな垂れていた顔を起こして由結を眩しそうに見上げました。
「それに、本当はすぐお父様の所へ帰るつもりだったんでしょ?」
「うん、そうなんじゃ、チョイと脅しのつもりで飛び出しただけなのだ!・・ほとぼりが冷めた頃、あの男が困ってるだろうなと思って戻ってみると顔見知りで八幡宮の御神鳩だったハトキュウの奴がワシのぽじしょんにおったのじゃあ」
「うんうん」由結は優しいママの表情で話を促します。

「ハトキュウの奴も気を使って度々屋敷に戻るように声をかけてくれおったんじゃがワシも意地になって戻らんかったんじゃ・・それ以来何十年、ワシの長い寿命の中では一瞬じゃがそれまで王家の屋敷でせれぶな暮らしをしていたワシには野生の生活は厳しかったのじゃあ・・」
「大変だったねー」由結は優しくキツネ(幼女形態)の頭をいいこいいこします。
「たまもちゃん姿になるとおまわりさん奉行に追っかけまわされるしキツネ姿だとイヌごときに吠えられるし猫の奴にも追っかけ回されるしカラスごときにつつかれるし・・ここ数年は特に辛かったのだ・・生まれて此の方冬眠なんてした事も無かったから冬場は特に厳しくて・・」
「もう大丈夫だよ」そう言って由結はぎゅうしました。
「姫様ぁ〜うわ〜ん」キツネ(幼女形態)はとうとう泣きだしました。
「キツネさんごめんね、これからはずーっと一緒だよっ」由結はニッコリ微笑みました。
「おーいおいおい、今まで暮してきた王家の者達にも心通わせたり仲良くなった者もいたけれど所詮はキツネの妖怪のワシにこんなに優しい言葉をかけてくれた姫君は由結姫様が初めてなのだぁ、うわ〜ん」キツネ(幼女形態)は泣きじゃくりました。
「あ〜あ、自分で妖怪って言っちゃったよ」
「フフ、かなわないなぁゆいちゃんには」MIKIKO先生と最愛もやりとりを優しく見守りました。
「今までゴメンなさいなのだぁ、嘘の銭を作ったりして〜」
 キツネ(幼女形態)は土下座して謝りだしました。
「・・えーと、例の魔法はどうぶつにも有効っと、メモメモ・・」MIKIKO先生は㊙︎手帳に書き込みました。
「豆腐屋のじいさん、嘘の銭で油揚げ買ってすまなんだぁ」
「豆腐屋っと、メモメモ」
「あなたとこんびにすまなんだぁ」
「ファ○マね、メモメモ」
「いぬの電話屋すまなんだぁ」
「S社ね、メモメモ」
「みらの風どりあばかり食べてすまなんだぁ」
「ああサイゼ○アね、メモメモ」

「紅ショウガと七味をこれでもかってくらいかけてすまなんだぁ」
「牛丼屋かぁ、なんだよ結構色々やらかしてるなぁ、メモメモっと」
「ドMのお店のはんばーがーお世話様でした」
「『ド』は余計だろ」
「と○やの羊羹ごめんなさい」
「おいっ!それは贅沢品だろっ」
「すぅいーつ食べ放題ごちそうさまぁ」
「スイ○ラかっ⁉︎ス○パラなのかっ⁉︎」
「初乗り料金ばかりですまなんだぁ」
「何タクシー使ってるんだよっ⁉︎しかもワンメーター」
「それからソラカラちゃん、あんな事してごめんなさい」
「お前ソラカラちゃんに何したんだよっ⁉︎」キツネ(幼女形態)はひと通り悪さを懺悔しました。
「いいよ、今度ゆいも付いていくから一緒に謝りに行こうね」
「姫様ぁ、いきなり迷惑をかけてごめんなさいなのだぁ〜」
「使い魔の責任は主人の責任、気にしなくていいよ」
「姫様ぁ〜、感謝感激なのだぁ!これからは心を入れ替え姫様を護る盾となり知恵となり未来を探る杖となり尽くしますのだぁ!」
「ありがとう宜しくね!キツネさん」
 抱き合う二人を見ながらMIKIKO先生は「しょうがないな」っと呟きながら何処かに電話をかけだしました。「あ、しもしもアベっち?たびたびめんごめんご。え?国会?決議中?そんなもんと私の電話とどっちが大事なんだよ?」
 おいおいどう考えてもそっちだろうと青くなる一同を他所にMIKIKO先生は電話を続けました。
「あのさぁ、ちょっと前にニセ札幼女事件ってあったじゃん?あれの犯人うちで確保したんだけどチョイともみ消しといて。被害届け出ている分にはうちが補償しておくからさぁ。それと小学校5、6年生くらいの女子児童の戸籍一つ作っておいて。え?公安に言えって?てめぇに言った方が話が早いからわざわざ電話してんじゃねえかよっ、分かれよな!じゃあシクヨロね、バイビー!・・これでヨシっと」・・・うわヤベェこいつには逆らえないゾ、と思う一同なのでした。

 さていよいよ帰る事になってエントランスを出た途端SU-METALはウ○コを踏んでしまいました。しかもそのまま車に乗ろうとしたのでMIKIKO先生にゲンコツで脳天をしこたまぶたれました。
「めっちゃ痛ーっ!・・今日は一度死ぬわMIKIKOやゆいちゃんに殴られるわ新品の靴(紐無し)でウ○コ踏むわで散々だよ〜」
「あれ?そういえばさっきキツネが言ってたすぅちゃんの頭と足裏の受難ってコレじゃね?」最愛は気付きました。
「だから本当だと言うたじゃろうがぁ」
「えっ⁉︎あれってマジだったの⁉︎」
「キツネさんすごぉーい!」
「ま、ウ○コはワシのじゃがなゴフッ・・」MIKIKO先生に速攻でシバかれました。
「てめぇ敷地内でウ○コするんじゃねえ!」
「いやあ、ここも久しぶりだったからチョイとまーきんぐなどを」
「この犬畜生がっ!今度その辺にウ○コ垂れたら野良ギツネに逆戻りだからな!」
「ひーっ、ごめんなさいなのだぁ〜」
「そうよキツネさん、ウ○コはおトイレでしようね」
「すみませんすみませんウ○コは厠でしますウ○コは厠でしますウ○コは厠でします大事なことなので3回言いましたぁ!」
「フン、まあいいだろう。お前学院に帰ったら絶対キツネだってバレないようにしろよな」
「はいっバレないようにするのだぁ」
「そして小等部に転入させるからな」
「なんですと⁉︎もしかしてワシに人間の学校に通えと?」
「そういう事だ。どうせ昼間は由結姫様も授業中でいないからお前も学校通って人間界の常識とか教養とか改めて身に付けるんだ」
「く〜ん、正直不安しかないのだぁ・・」
「大丈夫大丈夫、この学院は容姿や芸事には秀でてる魔女っ子は多いけどぶっちゃけ偏差値的なものは低いから!」先生自ら身も蓋もない発言です。
「なんかウチら軽くディスられてる?」最愛は気付きました。
「とにかくそういう事になったからそのつもりでな」「く〜ん」

 こうしてチームには新たになんちゃって神様のキツネが加わりました。後日、幼女形態の新しい名前を決めたりとか色々イベントは有りましたがそれはまた別の機会に・・

 帰りの車中、由結の膝に乗ったキツネ(どうぶつ形態)は久しぶりに味わう安らぎを噛みしめていました。これまでの経緯を見るにつけ自身に降りかかる災難は全く読めない残念なキツネでしたが、このチームが突き進む栄光と奇跡の未来はおぼろげながらこの時既に見えていたのです。なのでこの先キツネはチームがそこに到達する為の重要な選択を予言していく役割を担うことになっていくのでした。

 なお、このチームのブレインとなった同志KことKOBAMETALはすっかり忘れられてメイドさんが発見するまで広い屋敷の一室にしばらく放置されたままでしたとさ・・・。


(14)最終章 THE ONE

 激しい濁流のような人波の中でうっかり脚をもつれさせて転んでしまった若者にタトゥーだらけの丸太のような腕が差しのべられる。
 別段知り合いでもなければなんら接点も無い2人だが、引っ張り起こして微笑みを交わすとメロイックサインに類似したキツネの形を指で模したサイン同士をコンっと当てて又それぞれ激流に飛び込んでいく。そうやって走り回り、飛び跳ね、身体をぶつけ合って楽しさを表現する者達、或いは一緒に歌う者達、踊る者達、そして食い入るように見つめる者達・・そんな光景があちこちで見られるこの空間には色んな人種の老若男女が存在していました。そして1つ共通するのは皆んなイイ笑顔だという事。そう、此処に居る者達は滅茶苦茶楽しんでいるのです。幸せ過ぎて涙を流している者さえいる程に・・・

 此処はとあるコンサート会場。今は人気急上昇中のバンドがライブを行っていました。
 背後の垂れ幕には天使の羽根を組み合わせたBABYMETALという文字が入ったロゴが見えます。このユニットの名前です。もちろんそのデザインは由結の持つ王家の羽根に由来するものです。神と称される世界屈指の技術を持った演奏者達が奏でる激しく、重く、美しいメタルサウンドをバックにSU-METALが歌って踊りYUIMETALとMOAMETALが合いの手を入れて踊りまくる。一見するとなんじゃコレな組み合わせですがこの斬新な試みはその本気度と相まって極上のエンターテイメントに変身しました。
 天に愛されし声を持つと言われるSU-METALの歌は世界中の人々を魅了し多くの中毒患者を生み、抜群のセンスと身体能力を誇るYUIMETALとMOAMETALはMIKIKO先生が振り付けたダンスと愛くるしい笑顔で多くの人々に喜びと楽しみを与え続けているのです。
 こうしてメタルダンスユニットBABYMETALは悪者を無くし、世界を一つにするという壮大な使命を持って大きく世界に羽ばたいていきました。

 BABYMETALのライブに足を運んだ人達は・・例えばいじめっ子がイジメをやめたり逆にいじめられっ子がイジメられない強さを持ったり、例えばお嫁さんに意地悪なウトさんトメさんがお嫁さんに優しくなったり、例えば嫌味な上司が部下をフォローする様になったり、例えばマナーの悪い愛煙家が灰皿を持ち歩くようになったり、例えばパソコンしか友達がいなかった引き篭もりがBABYMETAL観たさに会場まで出るようになってたくさん仲間が出来たり、例えば女性を欲望の対象にしか見ていなかった者がとても女性を大事にするようになったり、例えば働かなかった怠け者が急に働くようになったり、例えば悪い薬に頼ってた者が断ち切る事が出来たり、例えばガチな犯罪者が自主して懺悔したり・・・
 大小様々なこれらの事例とBABYMETALの因果関係が表立って取り沙汰される事はありませんでしたが、彼女達のレジスタンスは着実に世界中へ進行していきました。

BABYMETAL、それは楽しくなれる魔法。
BABYMETAL、それは喜びもたらす魔法。
BABYMETAL、それは幸せになれる魔法。
BABYMETAL、それは優しくなれる魔法。

BABYMETAL、それは・・世界を一つにする魔法・・


第一部 完


 あとがき

 このお話はそもそもはゆいちゃんの16才のお誕生日に向けて何かしたくてゆいもあちゃん高校入学のタイミングで書き始めたものですが、気がつけば17才のお誕生日も過ぎて更に半年が過ぎてなんとすぅ様の19才のお誕生日までかかって一区切りつきました。

 このお話は勿論わたくしのアホな妄想以外何物でもなくナント登場人物が全員残念という御本人及び関係者の皆様には間違っても見せられないおバカなフィクションです。が、BABYMETALの魔法はあるんじゃないかと思っています。
 いつも我々の予想の遥か上を飛び越して楽しませてくれるBABYMETAL。
実際の彼女達が歩んでいるメタルレジスタンスより面白いストーリーなんてなかなか無いと思います。そんな素敵な彼女達への感謝と敬意を込めて・・ 2016/12/20